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九月一日  その2

この話では性的な描写が含まれています。それらのワードがひっかかるか気になりますがどうせ誰も気にしないと思うのでそのままに。

 帰りのホームルームで担任の先生の話で思い出したんだけどそろそろ秋の行事の体育祭が到来する。


 ホームルームが終わると三年生はほぼみんな受験勉強に備え帰宅する。美術部の活動は夏休みまでの期限だったから、自宅で油絵の勉強を猛烈にしようと正面玄関に向かいながら考えた。


「おーい、まてよー創太!」


「ん、なんだ直樹か」


「一緒に帰ろうぜ」


 直樹が後ろから追いかけてきた。今日は直樹と帰ることができる。


 杉原直樹。クラスの中では僕よりも少し上のグループに位置している。普段の学校生活の中でも気さくな男で、好き嫌いなく誰とでも話す。直樹にとって僕はなにかといじりがいがあるのか、色々話しかけたりしてくれる。けれど、その内容は直樹の興味のある話だったり自慢話であることがほとんど。どうも僕は直樹にとって都合のいい存在らしい。


 帰りのいつもの一本道は制服を着て下校している三年生がまばらだ。


「はあ、受験だよどうしようかなあ」


 僕は悩みのタネを漏らした。


「創太はどこの高校行くんだよ。俺は北山」


「まだ決めてないけど、できれば北山いきたいな。入れるかどうかわからないラインだけど」


「ああ!? おまえ北山ぐらいは入れないとやばいぜ!? 追い込みかけたほうがいいぜ。まあ俺は推薦ねらうけど」


 そうだけれど、僕にはやらなくちゃいけないことが残っている。どうしても卒業するまでにやらなくちゃいけないことが。


 深刻に考えながら歩いてると直樹がこんなこと言ってきた。


「女の体ってなんであんなにそそられるものがあるんだろうな」


 いきなり女の体という言葉を発したので少し面食らったが思春期の僕達にはタイムリーな話題だ。


「少し男と体つきが違うだけなのになぜ我ら男どもは奴らに屈するのか!」


「神秘だよなあ」


「そう神秘! それは宇宙を超える! あの胸のふくらみ、股間、顔、声、しぐさ。全てが俺を吸い込むブラックホール」


「女性がいるから頑張れることってあるもんな」


「もし女性がいない世界になったとしたらもはや平和はあり得ないのである!」


 直樹は自分の主張を誇示したがる演説家のように喋る。


「女性はなんていうか癒しだよな。直樹の言うように男だけの世界だったらどこか歪んでて不自由な世界になってたかもしれないな」


「そうさ。たとえ心身ボロボロな状態でも乙女のキッスをうければ、たちまち全回復するだろう! それはこの世の奇跡といっても過言ではない!」


 それほど直樹にとって女性とは大切なものなんだろう。それは僕にとってもそうだ。


「そんな女と一つになってみろ。そこにしか天国はない。そう思わねえか?」


「そうだな……」


 きっと直樹のアイデンティティの中で女性という存在が抜けたら、もろくも崩れ去ってしまうほどの大切な要素を占めているんだろう。同調しながら彼の話を聞いた。


「話は変わるんだけどさ、俺らのグループの中じゃ中学生のうちに何人エッチできるか競ってるんだけどさ。おまえも参加するか?」


「い、いや僕はいいよ。でも興味はあるかな」


「だろー!? 卓也とか四人と付き合ってるし、茂は三人。かあー、もう済ます事済ましてんじゃねーかなー! 俺はまだ一人だけ」


「え? 直樹一人経験したのか!」


「いや、付き合っているだけなんだけどな。何とかして事に運べねーかなー」


「どのくらいの期間つきあってるんだ?」


「おおそれ聞いちゃう? かれこれ二年生の頃だから十ヶ月になるぜ」


「じゃ、うまくいってるんだな」


「おまえも早く俺に追いつき追い越せよ?」


「……ああ」


「色々な女とエッチしてみたいなー。そうそうおまえ同じ部活仲間だった優香と仲いいみたいだけどよ、なんとかして俺と付き合えるようセッティングしてくれね?」


「そんなこといったって直樹には彼女がいるんだろ?」


「そんな事かんけーねーよ。あいつはそれほど可愛くねーし、優香の方がセクシーでいいぜ。顔もクールだしな。ある時見かけたんだけどスカートが短くてその姿がたまんなかったなー」


「確かに優香はスカート短いけど」


「ほんと、俺も仲良くさせてもらいて―わ。そしたら優香とエッチ決め込むんだけどな」


「おまえなあ」


 民宿で誘ってきた優香ともし行為に及んでいたらと思うと多少後悔は募る。けれど優香との民宿のお風呂の場面や、星が瞬く空の下で亜悠の顔を見たとき。興奮したことは間違いない。けれど直樹のように自分の性欲を満たすためにみたことはない。これはどういうことだろう。二人共同じ女性として大切に思っているから? 多分、直樹と僕は女性を見る角度が違うんだと思った。


「まあ、おまえは肝心なときに引っ込み思案になるから絶対エッチなんて中学生の間はないだろうけどな」


 直樹はそんな風にしゃべる。僕は、「はいはい」とオウム返しのように返事を返した。


「光村が一番経験人数多そうだな。俺の分析によると圧倒的にあいつが学年でモテ偏差値がずば抜けている」


「一つ訊いていいか?」


「なんだよ」


「モテ偏差値とか初めて聞いたけど、それが高ければなんかあるのか?」


「ったりめーだろ。手つなぎ、キス、エッチ。それらの経験が多ければ多いほどそいつのモテ偏差値がわかる。モテ偏差値が高いやつはもちろん青春を謳歌した勝者として男子から羨望のまなざしでみられるのさ。おまえもそんな景色味わってみたいだろ?」


「そうだな……」

「いや、そうは思わん」


「!?」「!?」


 後ろから僕と直樹の会話に誰かが割り込む。振りかえると猫背の龍太郎がもともとたくわえてる細い目を一層細めてそう言ってきた。もしかして最初から話を聞いていたのか?


「俺は経験が多ければそれに憧れるとは思わねえ。大事なのはお互いが実りある成長ができる恋愛ができるかどうかだ」


「はあ? でもやっぱり経験が大事だろ。たとえ実りある恋愛ができても結局それでエッチできなかったら意味ねーだろーが!」


 龍太郎と直樹は意見が食い違ってどちらが正しいのか言い合っている。その論争が続いてどちらが正しいのかわからなくなった。両者が言い争っている内容は僕の中でどちらも正しいと思えるポイントがある。


「じゃあ創太はどっちが正しいと思っているか聞いてやろーじゃねーか」


「のぞむところだ」




「……え?」


 直樹と龍太郎は二人とも険しい顔をして僕に歩み寄る。


「さあどっちだ?」「答えろ」


「うーん……」


 さあ、どっち? て聞かれてもわからない。両者の一触即発な雰囲気を変えるためになんて言えばいいのだろう。困ったなあ。


 うーん……。あ……。


 閃いたぞ! 両者が納得する答えを!


「そうだ! 本当に好きな人と本気の恋をすればいいんだよ!」


「……」「……」


 いい答えだと思ったんだけど……。ど、どうしたんだろう。あれ?


「そうだな」「だろうな」


 二人は淡白な反応だった。両者とも納得して頷いている。熱い論争はピタリと止まった。


「まあ、そう言っても難しいんだけどなー」


 僕ら三人は同時にため息をついた。


 直樹と別れてやがて龍太郎とも別れて残り僅かな下校の道を歩きながら優香と亜悠について考える。優香とは「私の絵も描いてよ」と話して以来口をきいていない。亜悠については万能秀才の光村と仲良くしている妄想があふれだす。けれど嬉しいことに僕は二人と仲良くしている。いかん、油絵の猛勉強に励まなくちゃ。とにかく、悩むのはそれからでいい。




 深夜、自分の部屋の時計は午前二時を過ぎていた。その時刻を確認しても美術にむかい続けた。そうだ。悲しい結末を迎えるにしろ僕にはまだ自分の力で変えられる未来がある。自分次第なんだ! 迷っている場合じゃない!



次の話は九月二日。

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