九月一日 その1
あけましておめでとうございます。今年が充実した一年になるように、気分を一新して小説を書いていきます。
今日から新学期だ。新しい自分に生まれ変われたような気分だ。登校の準備をしながら胸に覚悟を決め込む。夏休み前の自分と今の自分では色々な面で成長していると実感できる。一時は鳥谷に絵を壊されてから絵を描く気持ちが衰退していたけれど、なぜか今日を境に回復している。
がんばろう。久しぶりにCDプレーヤーで音楽をかけた。父親がいつも聴いている東京スカ○ラダイスオーケストラのBGMを流した。勢いとリズムの良いトランペットの音が背中を押してくれるようでテンションが高くなった、よし、学校に行こう!
豊山中学校へとつづくいつもの長い一本道を歩いている。前を見るとぽつぽつと登校している生徒達の中に友人の背中を見つけた。猫背で特徴が分かりやすい。気分がいいからその友人を驚かして挨拶してやろうと思って、かけつけて後ろから背負っているカバンを叩いて、「よお!」と言った。
「あ、やあ」
猫背の友人は暗く、挨拶にも曇りがかっている。
「なんだよ、暗いなあ。新学期なんだからさあ、もっとシャキッとしようぜ」
「そんなこと言ってもこれが俺だ。無理に元気は出せない」
心まで猫背なのか。まあいつも暗いし、僕もそういうタイプだからいつの間にか話せる間柄になったんだっけ。友人の名前は瓦龍太郎。
彼は僕と同じ学校の底辺グループだ。いつも大人しいし、学校は僕と同じく大嫌い。なぜなら学校で自分をうまく表現できないからだという。インドア派で音楽が好きでギターをプレイしている。
前に家に行って見せてもらったのはギルドとかフェンダーとかギブソンのギターが龍太郎の部屋には置いてあって弾いて見せてくれた。とても上手かった。CDもたくさん持っている音楽オタクだ。家の中の彼は本来の自分らしさで自由に話すし、音楽で楽しく自分を表現できるという。でも、学校だととにかく暗い。似た者同士だ。
……よくよく考えてみると学校て何なんだと思う。人間とうまくつながってコミュニケ―ションをつくっていくいわば社会のようなものだと父親に言われたことがある。自分をさらけだせない僕にとっては誰が決めたか知らないそんなルールに納得がいかない。
勉強して、部活をして、友達や嫌いな奴、先生にうまく機嫌をとって自分の心を隠していなくちゃいけない。そして成績がステータスとして生徒は全員比べられていく。先生には分からない友達グループの階級なんてのもあって、そこでも生徒の間では優劣がつくられている。そんな狭間で何が生まれるというのだろう。これが社会の雛形なのだろうか。
そう思うと胸が苦しくなって重い鉛のような感情が心に湧き出る。そんな気持ちを中学生だからいいやと目を逸らしているけれど……。
龍太郎が元気を出すように彼の背中をポンと叩いた。僕は龍太郎に聞いた。
「龍太郎の夢って何だ? 夢ってあるのか?」
「夢、ある」
「なんだよ」
「音楽で生きていく」
「そっか」
「最近は弾き語りも始めた」
「歌も始めたのか。アコギかついでジャカジャカ歌うのか」
「そだ。自分で唄も作ってる」
「オリジナル作ってるの!? スゲーじゃん! 文化祭で披露したら?」
「もち、その予定だ」
それから、ずっと龍太郎とは無言だった。何か面白い話題で盛り上がりたかったけど、龍太郎にそういう関心はない。
校門をくぐる。見上げれば、冷たい校舎がそびえている。そこにみんな生徒達が排水溝にたまる水のように飲み込まれていく。ふと体育館に目をやると光村がいた。六、七人の集団で楽しそうに話しながら正面玄関へと向かっている。彼らの賑やかさと僕達の静まり返った雰囲気の対比が僕を寂しくする。
この学校にある生徒達の階級。僕のような人間は隅に追いやられるんだ。そんな自覚が今はとにかくいらだたしい。どうか心の中にある希望よ、燻らないでくれ。
僕は教室である一組に向かった。そして自分の席につく。
二時限目にちょっと落ち込む事件が起きた。数学の授業で先生にある問題の答えを回答するよう指名されたけど僕はまったく問題の理屈がわからず答えられなかった。すぐさま光村が手をあげて軽快に回答した。その時、僕は光村との違いの差を痛感せずにはいられなかった。
給食の時間だ。給食の時間の間は生徒がリクエストしたミュージックが校内に流れる。
『はい。続いてのリクエストは三年一組の瓦龍太郎くんのリクエストでスガ○カオで月とナイフです』
そうして月とナイフという曲が流れる。いつも週に一回、龍太郎はこうやって自分の好きな曲をリクエストする。なぜなのか前に聞いたときに龍太郎は、「みんな流行の曲しか流さねえ。だからみんなが聴かないような曲をリクすんだ。古すぎたりマニアックな曲だとウケは悪いだろうから、なるべく新しくてみんなが共感できるような曲を選んでる」と言っていた。
確かにスガ○シカオなんて初めて知ったし、こういう渋い選曲をしてくるあたり音楽マニアの骨頂だな。みんな最近テレビで流れているような曲ばかりリクエストしている中で龍太郎のセンスは相当渋い。
しばらくその曲を聴きながら食べていると気になる歌詞が耳に入った。それはこうだ。
【今更何も言わないけれど、君の言葉は全部嘘でいいんだろう】
この曲は結局愛しあっていた男女が傷つけ合い憎しみ合い、それがいつまでも心に残ればいいという大人の歌詞だった。もし僕の恋人が亜悠だったら、彼女にそんなことはしたくない。そんな恋愛ができるだろうか。でも、そんな関係になりたい。
次の話は九月一日の第二部です。




