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八月三十日  その2

八月三十日の二部目です。

 みんなのいる場所に戻ると、さっそくバーベキューでお肉、野菜、キノコなどをいただいた。その間、亜悠のバスケ仲間と話したりしていると亜悠についていろいろ聞くことができた。素直で飾ったりしないんだよとか、いつも元気で多少のことには動じないとか、バスケの活動のこととかいろいろ語ったりしてくれて興味は尽きなかった。

 そのあとみんなはうるさく騒ぎながら花火を打ち上げて、僕はジュースを飲みながら控えめに見ていた。みんなと花火でじゃれて遠くに行ったり近くに行ったりしている亜悠。天真爛漫な姿をみて思う。バスケのエースだったり、みんなと仲が良くて、学校でも自由に自分を出せる彼女は僕と違う世界にいる人間だけど、僕のような少し変わった人間に心の通う大事な存在として認めてくれていること。そして一緒に生きていること。この時間は夢のようで、彼女が好きだからいつまでもこうしていたいと感じる。僕と同じように彼女も僕を思ってくれているとしたら。そんな想像に夢中になっていた。


「創太くん」


 みんなとはしゃいでいた亜悠がいつのまにか僕の隣にきて話しかけてきた。彼女にぎこちなくも話しかける。


「みんなで集まって騒ぐっていいね。普段こんなことしないからさ」


「男子は羽目外しているのに君だけなぜボーっとしてるのかね?」


「いや、僕はこういう奴だから。こうしているだけでも満足だよ。とても楽しいし」


「じゃあもっと楽しくなろうよ」


「もっと楽しく?」


「そうだよ。創太くんも一緒にパラシュートとらない?」


 一緒にパラシュート?


「あ、打ち上げ花火の後に飛ぶパラシュートか! 僕はいいよ! あぶないし」


 男子達は打ち上げ花火を両手に持って大声をあげて走りながらお互いに向けて発射している。まじで危ねーよ。


「亜悠ー! そろそろ打ちあがっちゃうよ! キャッ!」


 亜悠の友達の女子が持っている打ち上げ花火にライターで火をつけると大きな音と共に小さな花火が空に打ちあがる。


「いーの! やろうよ! 十発目にパラシュートがあがるから!」


「わ、わかった!」


「どっちが捕れるか勝負だよ! 男子なんだから手加減はしないよ!」


 そう言うと打ちあがっている花火の元に駆け出していく亜悠。


「おーい! まってよ! ……くそ! やるぞー! 亜悠なんかに負けるかよ!」


 こーなりゃヤケだ! 片手にジュースを持ったまま無理やり駆け出した。


「キャー!」


 打ち上げ花火は五発、六発パンパンと音をたてて青、赤、緑とカラフルな色で夜空を鮮やかに彩る。僕は打ちあがっている場所まで走る。


 あれ? なんだろうこの感覚? 鳥になったような気分だ。


 十発目の音が鳴ると目を見開き暗闇の夜空を見上げた。亜悠には捕らせない! しばらく何も見えなかったが広場の街灯のぼんやりとした光に照らされるパラシュートを見つけた。


「うおおー! 僕が捕る!」


「捕らせないよー!」


「そうはいくか!」


 六メートル、五メートル。ゆらゆらと揺れるパラシュートの真下に位置を構えるとそのままゆっくり落ちてくるように見えた。


「あ!」


 しかし四メートル、三メートルと近づくにつれパラシュートは急に左に傾いて落ちてきた。左に流れながら落ちてくるのを追いかけると地面のくぼみに足をとられ、バランスを崩しジュースを上に放り投げる形で転がった。


「うわわ!」


「キャー!」


 亜悠の声と共に僕は地面に這いつくばった。ジュースの液体が自分の体に降りかかり、カランとジュース缶が自分の頭に落ちて音を鳴らした。


「とう!」


 亜悠はパラシュートを捕ると笑顔で喜んでいた。僕はといえば情けない格好で倒れこんでいる。か、かっこわりぃー!


「キャッチ―! 私の勝ちだね! なに転んでるの? プッ、アハハハハ!」


 周りで見ている男女たちも僕を見て笑っていた。


「えーい! 笑え笑え!」


 でも全然悲痛じゃない。むしろとても楽しい。まあいっか。僕は起き上がった。


「ハイこれ。大丈夫?」


 そう言って亜悠が差し出してくれたのはハンカチだった。すかさず、その彼女の優しさに触れたのだった。


「あ、ありがとう」


 僕達は広場のベンチに腰掛けた。相変わらず男子達は花火遊びに夢中になっている。女子達はといえばそんな男子達を見て楽しく話をしていた。僕達はそんな様子を見ながら夜風に吹かれた。


「パラシュートを追いかけながら転んでみんなに笑われちゃったけれど、それはいつもの自分と違う新しい自分だったなあ。そしてその瞬間は僕も他の男子と同じような気がしたんだ」


「大丈夫だよ。他の男子と変わらないんだよ。創太くんだってみんなと同じなんだよ」


「そ、そうかなあ」


「そうだよ!」


 亜悠がそう言ってくれれば僕は何にだって変われる気がするよ。


「亜悠、ありがとう……」


「誕生日会、ありがとうこちらこそ」


 亜悠はニコッと笑った。僕もつられてニコッと笑った。今の笑顔は僕の自然な笑顔だったよ。


 あっという間に時間は過ぎて午後九時半に誕生日会は終わった。光村とは何度か視線が合ったけれど、お互い何も話さなかった。


「ほんと、夏の終わりだなあ」


 一人呟くと夏休みが終わりを告げる。もう目の前には二学期が待っている。戦いはこれからだ。

これで夏休み編は終わりとなります。次から二学期編です。

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