3:白黒はっきりつけましょう
「…で? いいのか、アレ?」
視線の先は、レイラとその取り巻きたち。
見たところ、婚約者持ちが半々といったところだが、その中に王太子もいたりする。
まー、緩み切った顔をして。王族の威厳もあったものじゃないわ。
「一応、一度は忠告したわよ」
先日のことだが、無邪気を装ったレイラに抱き着かれたらしい顔面崩れまくっていたアンセルムが、うっかり視界に入ってしまった。
見てしまったからには、婚約者として苦言を呈さなければならない。後々義務を果たしてないとかなんとか、難癖をつけられても面倒だから。
というか、私の見てないところでやってもらいたい。心底そう思う。
あ、嫉妬とか間違っても勘違いしないでね(対殿下)。目障りなだけよ(とはさすがに言えない)。
「忠告して、あれなのか」
「それが、殿下の殿下たる所以よ」
「お前も苦労してるな…」
「理解してくれて嬉しいわ」
私たちは学園のテラスでお茶を飲んでいるところだ。不快なものがちらちら映っているのを、意識的に逸らす。
向こうがこちらに気付いていないのが、唯一の救いだ。
アンセルムは魅了魔法にかかってはいるようだが、どうもかかり方が中途半端とでも言ったらいいのか。
あっさりレイラの手に落ちたから、2年前の記憶などすっかり頭にないものと思っていたけれど。
「シルヴィア! またこいつと一緒にいるのか!! 俺というものがありながら…!!」
うわ、見つかった。いつこっちに来たのよ。ちょっと目を離した隙に。
反射的に嫌そうな顔をしそうになるのを、取り敢えず堪えた。公爵令嬢の矜持で。
「王太子殿下、セドリックは公爵家の寄り子です。それに、2人きりではありませんので」
6人掛けのテーブルは満席、男女比率は半々である。
そう、シルヴィアを見ると魅了効果が薄くなるのか、一時的に記憶が戻るのか、こうしてわざわざ絡みにくるのだ。面倒な上に、鬱陶しい。
しかしどの口が、俺というものなどという台詞を吐けるのか。
今の今まで、レイラしか眼中になかったくせに。いやそれでいいのだけれど。むしろ大歓迎で、その方向性で突き進んでくれたら言うことはないのだけれど。
「ああ、もしや殿下にはセドリックしか目に入りませんでしたか? まるで恋する乙女のようですね」
「何を馬鹿なことを…!!」
「申し訳ありません、王太子殿下。俺にはもう心に決めた人が…」
「お前も、何を言ってるんだ?!」
恥じらうように顔を背け、演技する幼馴染。
ノリがいいわね、セドリック。
他の4人は肩を震わせている。分かるわ。殿下がいなかったら、笑いの渦に私も巻き込まれてるわね、多分。
「とにかく、殿下に咎められる謂れはありませんので」
面倒になったので、場所を変えることにしよう。
シルヴィアが立ち上がると、その場にいたものたちは次々と席を立つ。
「おい、どこに行く!」
殿下のいないところへ。
口には出さず、無言で去った。
待てと言われても、待つ義理も義務もありません。婚約者だから?
それを言うなら、殿下も少しでいいので、自らの行いを振り返ってくださいね。
などと、心中で呟いても意味はないが。
しばらく様子見をしていたが、このままだと完全に魅了されるわけでもなく、かといって、レイラから離れるというわけでもなく。シルヴィアにも執着しているように見える。
どっちつかずでふらふらしている状態だ。
このままだと、処刑はされないかもしれないが、婚約は解消されず、王家に嫁ぐ羽目になってしまう。それだけは避けたい。
セドリックのこともあるが、あのアンセルムの介護など冗談でも御免だ。
「…どうする? 俺が動いてもいいけど」
「そうねえ」
「セドリックばっかりずるいです! お命じくだされば、僕だってやれます!!」
「そうですよ、わたしだってお役に立てます!」
「抜け駆けすんなお前ら、オレだってやれますよ、姫」
「私もです!!」
はいはい!と手を挙げる、私の手のものたち。
主家の人間というだけではなく、私個人を慕ってくれている子たち。
「ありがとう。あなたたちには、いつも助けられているわ」
実際、レイラのクラスや周囲の状況など、具に観察し、報告してくれている。
私1人では目の届かない部分もあるから、味方は多ければ多いほどいい。
アンセルムの言うように、もし死に戻ってきたというのが本当だったなら。
そして、冤罪で処刑されてしまったのなら、シルヴィアはきっと孤立無援の状態だったのだろう。
この子たちも、レイラの毒牙にかかっていたのかもしれない。今、その懸念はないけれど。
自分の意思で、シルヴィアを裏切るわけがないと信じられる。
「取り敢えず、出方を待つのはやめにするわ」
この際、白黒はっきりつけましょう。




