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死に戻ったらしい公爵令嬢は思案する  作者: 篠月珪霞


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3/7

過去

「本当にいいのか、セドリック」

「はい」


ただ、なるべく民には被害を出さないでください。


「…分かった」


頷いた男は、兵と民を率いて王城に向かった。無論、セドリックも。

脳裏にあるのは、愛しい女の在りし日の笑顔で。

今から国を落とそうという時に、浮かぶのはただ1人だけだった。





何故、あのとき俺は、王命で決まったという理不尽を、そのまま吞み込んでしまったのだろう。

何故、彼女から離れてしまったのだろう。

何故、守れなかったのだろう。


幼い頃から傍にいるのが当たり前だった彼女を。

傍にいられなくなっても、見ていることしかできなくても。

誰よりも、大切だった彼女を。


他の誰よりも、愛していたのに──。






幼馴染だったシルヴィアは、本家の姫だった。

いずれこの方に仕えるのよ、と母は言い。そのつもりだった。

優しいだけではなく、時に貴族としての冷静さを持つ、上に立つべき器量を持つ彼女を好ましくは思っていた。

もちろん、容姿は言うまでもなく。

けれど。

それが、その綺麗さに、目を奪われるようになったのはいつからだっただろう。

傍にいて見ているうちに、成長とともに、磨かれる美しさを眩しく思うようになったのは。

向けられる笑顔を、ずっと見ていたいと思い始めたのは。

いつしか、主としてではなく、女性として見るようになってしまったのは。

どうしようもなく、惹かれていく心を止めることなどできなかった。


それからセドリックは、求婚する権利を得るため、ひたすら努力を続けた。

ヴァルトゼーミュラー公爵は無駄が嫌いで、無能が嫌いで、側にも寄せ付けないほどだ。だが、実力さえあれば、身分は関係なく重用してくれる。それが王家の能無しどもとは違うところだ。

やっと小さいながらも目に見える功績を上げ、公爵にも許しを得て、想いを告げることができた。

シルヴィアは驚いていたけれど、嫌悪や戸惑いはなかったから、時間をかければきっと異性として見てくれると。

ゆっくり心を通わせればいいと期待していた矢先。


断ったはずの王家からの縁談が、王命によって下されたことを知る。


シルヴィアは苦痛を耐えるような表情で、謝った。

ごめんなさい。

そんな顔で、そんな言葉、聞きたくなかった。








「王城が見えたぞ! 門番は抵抗するなら、身動きを封じろ! なるべく殺すな!!」


おー!!と民衆は湧く。

政務を放棄し、重税をかけ、民衆を苦しめてきた王家。

いずれはこうなっていただろう。

魅了魔法にかかっていて、あの女の言いなりだった?

そんなもの、言い訳になるわけがない。








学園入学前に、セドリックは隣国に渡った。

シルヴィアから離れるために。

傍にいれば、触れたくなるのを抑えられない。

きっと、彼女を苦しめる。

そんな自分を、許すわけにはいかない。

だから離れた。

いや、逃げた。

シルヴィアから。…自分の想いから。

その結果、何が起こったか。








セドリックが手を下すまでもなく、民衆の手によって王家の人間は捕らえられた。

もし。

もしも、シルヴィアが、王妃になっていたら。

ここまで、この国は疲弊することはなかっただろう。

民が苦しめられることはなかっただろう。

この国が、亡ぶことも、なかっただろう。


王家の人間など八つ裂きにしても足りない、けれど。

そんなことをしても、シルヴィアは還ってこない。

あの笑顔が、戻ってくるわけではないのだ。








「セドリック…」

「…ご協力、感謝いたします。皇太子殿下」

「いや、この国の惨状を見れば、お前の判断は正しい」

「そうですね」

「この国は帝国の属国となるが、どうする? お前が統治するか?」

「ご冗談を」

「お前にはそれだけの器があると思うが」

「いいえ」


シルヴィアのいない、この国に。何の意味も、価値も見いだせませんので。


「そうか、分かった。──ひとつだけいいか」

「何なりと」

「死ぬな。…お前ほどの男を失うのは惜しい」

「…死にませんよ」


死ねません。──…約束、したので。








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