060話 崩壊する戦線
王都外壁前線。
聖剣が折れた瞬間から、戦況は一気に瓦解し始めていた。しかも、レオニスが後退したことで、指揮系統は一時的に混乱する。
「持ちこたえろ!」
衛兵たちが必死に叫び、前線へと再配置される。そこへ、ヒロイン達も加わっていた。
リシアは傷を押して前線へ戻る。
「まだ……戦える!」
フェリは上空から矢を放ち、進行を阻害する。
「進ませない!」
エリスは死霊をまとめて焼き払い、突破口を潰す。
「《ピュリフィケーション》!」
ルナの氷壁が戦場の一角を封鎖する。
「《アイス・ウォール》」
ミリアは補給を維持し、クラリスは即座に戦況を再計算する。
そしてセレスティアは、崩れかけた戦場全体の流れを何とか持ち堪えられるようギリギリの制御を続けていた。
だが――限界は近い。
魔物の数は依然として膨大。そして、先導するザイの存在が圧力そのものとなっていた。
「……まずい」
クラリスが低く呟く。
「防衛線、三分持たない…」
その言葉と同時に、さらに最悪の事態が起きる。レオニスが後退した。それは撤退ではなく、離脱に近い動きだった。
「このままでは……無理よ」
誰にも聞こえないように呟く。
⸻
衛兵が叫ぶ。
「レオニス様、ご命令を――!」
しかし返事はない。ヒロイン達も何らかの異変が起きていることに気づく。
「レオニス様、お戻りください!」
別の衛兵が声を上げる。だがレオニスは振り返らなかった。
(ここで落ちるわけにはいかない。俺はまだやり直せる。生きていれば、何とかなる…)
その思考は、完全に“戦線維持”ではなく“自己生存”へと傾いていた。次の瞬間、魔物の群れが一気に押し寄せる。
「リシア!」
フェリが叫ぶが、リシアの動きが一瞬遅れる。先ほどの負傷が響いていた。
巨大なトロールの斧が振り下ろされる。その瞬間、まるでスローモーションのように周りの動きが遅く感じるが身体は全く反応できない。だから避けきれないと分かってしまった。
「しまっ――」
リシアが目を見開いた、その瞬間。
閃光。
斧は弾かれ、トロールの腕ごと切断される。その一撃で、空気が一瞬静止した。
「……すまない。遅くなった」
そこに立っていたのは、アベルだった。
アベルの身体は本調子ではない。しかし、立っているだけで、その強者の風格が周囲の空気を変えた。
彼は静かに剣を構える。
「ここからは、僕がやる」
その一言と同時に、戦場の圧がわずかに変質した。崩れかけていた防衛線が、再び“軸”を取り戻し始める。ヒロイン達が一瞬だけ息を呑む。そして理解する。今戻ってきたのは――ただの負傷者ではない。
戦場そのものを、立て直す存在だった。




