059話 折れた聖剣*
王都外壁前線。
戦況は拮抗から、徐々に崩壊へと傾き始めていた。黒い波のような魔物の群れは、依然として止まらない。
「リシア!」
フェリの叫びと同時だった。リシアの身体が大きく弾かれる。トロールが振るった巨大な石斧が直撃したのだ。
「くっ……!」
強化された身体とはいえ、直撃の衝撃は重い。地面を転がり、リシアは膝をついた。そこへフェリが即座に駆け寄る。
「動かないで!」
周囲の魔物が一斉に距離を詰め始める。
前線の穴が、わずかに――しかし致命的に開いた。
「まずい……!」
騎士の誰かが叫ぶ。そこから連鎖するように、防衛線が揺らぎ始めた。フェリはリシアを肩に担ぐように支える。
「撤退するわ!」
「まだ……!」
「無理よ、今は下がる!」
矢を放ちながら、強引に後方へ下がる判断を下した。
その瞬間、前線の圧力が一気に増す。
魔物たちが雪崩のように押し寄せた。
⸻
後方指揮所。
その崩れかけた戦線を見て、レオニスは動いた。
「……ここは、私が行く」
レオニスは聖剣を抜き放つ。王家に伝わる対魔の象徴。その刃に魔力が宿り、淡く輝いた。
「前線、数分持たせろ!」
レオニスはそのまま戦場へ飛び出して聖剣を振るう。その一撃で複数のゴブリンが吹き飛んだ。
「……いける!」
確かな手応え。だがそれは、上位個体が出るまでの錯覚だった。
次の瞬間、巨影が視界に入る。
サイクロプス型魔族――ザイ。
その圧は、周囲の魔物とはまるで別次元だった。
「……これは」
レオニスの動きが一瞬止まる。ザイはゆっくりとレオニスを見下ろした。
「小物か」
それだけで空気が歪む。レオニスは歯を食いしばる。
(勝てる相手じゃない。いや、“まだ”だ)
即座に判断を切り替える。
「撤退!」
レオニスは即座に距離を取ろうとする。その判断自体は正しかった。
だが次の瞬間だった。
「遅い」
ザイの腕が振るわれる。それはただの一撃。
だが戦場そのものを破壊する質量だった。
レオニスは咄嗟に聖剣を構え、受け流そうとする。しかし体勢が中途半端だった。逃げながらの防御と崩れた姿勢。その歪な状態のまま、衝撃が直撃する。
――瞬間。
嫌な音が響いた。
聖剣の根本が、ひび割れる。
「なっ……!」
次の瞬間、聖剣は完全に折れた。光を失った刃が、空中で回転しながら地面に落ちる。レオニスは一瞬、呼吸を忘れた。
ザイは興味を失ったように視線を逸らす。
「ただの雑魚だな」
戦場はさらに加速して崩れ始めていた。最前線は、すでに限界に近づいていた。




