056話 王への報告と焦燥
王城の謁見の間は、異様な緊張に包まれていた。
ギルド長と学院長が揃って王の前に立ち、深く頭を下げる。
「重要な報告がございます」
その声は、普段の事務的な報告とは明らかに違っていた。
「魔王復活の可能性についてです」
一瞬、室内の空気が止まる。王は表情を変えずに玉座へ座ったまま、静かに問い返した。
「根拠は?」
ギルド長が一歩前に出る。
「奈落最深部にて、準魔王級と推定される存在との交戦が確認されました。その準魔王級は遭遇した冒険者と学院生が討伐に成功しましたが、その存在は四天王を名乗っており魔王がすでに復活していることを示唆する発言を残しています」
学院長が補足する。
「加えて、通常では説明のつかない魔力異常も複数観測されています」
王はしばし沈黙した。そして短く告げる。
「調査が必要だな」
その一言により、場の空気はわずかに緩む。
しかしそれは、あまりにも“通常業務的”な反応だった。
「調査班を編成し、奈落周辺の状況を再確認せよ」
王の命令は冷静で、秩序だったものだった。
⸻
その場にはもう一人、控えている者がいた。
レオニスである。
彼は表面上は平静を保っていた。
しかし内心では、明確な焦りが生じていた。
(……魔王復活の可能性だと?早すぎる)
ゲームの展開では、まだ数年は猶予があった。その間に主人公は学院で経験を積み、ヒロインたちを育成し、戦力を整える。それを根拠に、レオニスは無理をせず安全な迷宮を選び続けていた。
確実に勝てる戦い。
リスクを避けた成長。
それが今――裏目に出ている。
(間に合わない可能性がある)
ヒロインたちの強化はまだ途上。
自分の切り札も完全ではない。
慎重すぎた判断が、成長速度を鈍らせていた。
王が続ける。
「当面は情報収集を優先せよ」
その言葉は冷静で、あまりにも現実との距離があった。
(そんな悠長なことをしている場合じゃない)
レオニスは奥歯を噛みしめる。
だがその瞬間だった。謁見の間の扉が乱暴に開かれる。
「報告! 緊急事態です!」
衛兵が息を切らせて駆け込んできた。
その顔は明らかに蒼白だった。
「魔王軍の――王都への侵攻を確認!」
一瞬、空気が完全に凍りつく。王の視線が鋭く変わり、ギルド長と学院長も息を呑む。
そしてレオニスは、理解する。
(……もう、始まっている)
準備の時間など、最初から存在していなかったのだと。




