057話 王都防衛軍 総指揮官レオニス*
衛兵の報告が謁見の間に響いた瞬間、空気は凍りついたままだった。
「魔王軍の――王都への侵攻を確認!」
一瞬の静寂のあと、王の視線が鋭くなる。
「詳細を申せ」
衛兵は息を整えながら続けた。
「侵攻戦力は推定一万。主力はゴブリン、トロールなどの亜人系魔物。そして――」
一拍置いて、声が震える。
「先導している個体に、準魔王級と推定される存在を確認」
場の空気が一段重くなる。ギルド長が即座に問う。
「個体の詳細は?」
「サイクロプス型の魔族……名は“ザイ”。四天王の一柱だと言っています」
王は短く息を吐いた。
「戦争規模だな」
そして即座に判断を下す。
「王都防衛体制を発令する」
重々しい命令が謁見の間に響く。続けて王は視線を巡らせ、一人の人物で止めた。
「レオニス」
「はい」
レオニスは一歩前に出る。
「お前には王都防衛の指揮を任せる」
周囲がざわつく。しかし王の判断は揺るがない。
「学院生ではあるが、現状で最も戦術判断に長けていると判断する」
レオニスは一瞬だけ目を閉じた。
「……承知いたしました」
声は落ち着いている。
だが内側では思考が加速していた。
(規模が想定以上だ。一万体規模、しかも首級は四天王)
彼の頭にはゲームの知識が浮かぶ。
似た構造、似た敵配置、似た戦術パターン。
だが現実は、それ以上に不確定要素が多い。
(前衛で押さえて、魔法で削る。
トロールは物理耐性が高い、魔法主体で処理。
初動で崩せば勝てる)
即座に指示を飛ばす。
「前衛は騎士団を中央に展開。
魔法部隊は左右に分散、広域殲滅準備。
城壁外で第一波を迎撃」
命令は合理的だった。少なくとも理論上は。
だが現実は、彼の想定より重い。
士気、恐怖、混乱。
そして四天王が戦場に立つという圧力。
遠くから轟音が響く。
地面が揺れ始める。
城壁の上の兵が叫ぶ。
「来るぞ……!」
黒い波のような一万の軍勢。
その中央に、巨影。
サイクロプス型魔族、ザイ。
その歩みごとに地面が軋む。
レオニスは拳を握り直す。
(ここで崩れるわけにはいかない。まだ、対応できる)
王都防衛戦が、今まさに始まろうとしていた。




