閑話11話 お見舞いと小さな訪問者たち*
意識を取り戻してから数日後。
アベルは学院の医務室から一般病室へと移され、ようやく落ち着いた環境で休めるようになっていた。身体はまだ重いが、会話には問題ない程度には回復している。
「アベルさん……本当に、よかったです……」
最初に病室を訪れたのはエマだった。
扉を開けた瞬間から、安心と緊張が入り混じった表情を隠しきれていない。アベルは苦笑しながら軽く頭を下げる。
「エマさん、その……ご迷惑をおかけしました」
「迷惑だなんて……!」
エマは慌てて首を振る。しかし、エマがセレスティアに切った剣幕の話を若い医務官から聞かされていたため、申し訳なさの方が先に立っていた。
「私、何もできなくて……それでも、セレスティア様や皆さんが……」
言葉の途中で、少しだけ声が詰まった。
アベルは静かに息を吐く。
「それでも、エマさんがいてくれたから助かりました。ありがとうございます」
その一言に、エマは目を見開く。
「……はい……!」
短く返事をして、ようやく表情が緩んだ。
しばらくの穏やかな沈黙。
エマは椅子に座り、回復状況を気遣いながら話を続ける。アベルはエマに事の経緯を差し障りないと思える範囲で説明しはじめた。
ガルドたちと共に挑んだ奈落での戦い。
準魔王級との遭遇。
そして、仲間を守れたことの喜び。
そのたびにエマは言葉を失いかけたが、それでも最後まで話を聞いた。
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「……本当に、無茶ばかりする方ですね」
エマは少し呆れたように言う。
「すみません」
アベルは素直に頭を下げる。
そのやり取りに、わずかな笑いが生まれた。
空気が柔らかくなった、そのときだった。
「「「「アベルお兄ちゃん!」」」」
勢いよく扉が開き数人の子どもたちが雪崩れ込んでくる。アベルも良く知っている孤児院の子達だ。そして最後に苦い顔のエリスが入ってきた。
「えっと……?」
アベルが瞬きをする。
エリスは肩をすくめる。
「孤児院の子たちが、どうしても会いたいって聞かなくて…」
子どもたちが一斉に話しかけてきた。
「アベル兄ちゃん!」
「ほんとにアベル兄ちゃんだ!」
「奈落ってどんなとこだったの!?」
口々に問いかけながら、アベルのベッドに身を乗り出して集まってくる。
アベルは少し驚きながらも、柔らかく微笑んだ。
「えっと……危ない場所だよ。あんまりいいところじゃないかな」
「すごい!」
「やっぱりアベル兄ちゃん強いんだ!」
「四天王と戦ったってほんと!?」
質問が止まらない。アベルは子どもたちの目線に合わせるように少し身を起こし、ゆっくり話をする。エリスは後ろで腕を組みながら呆れ顔で呟く。
「あれだけの怪我をしたのに、もう起きれるとかどれだけ丈夫なんですか…」
その後もアベルはエマや子ども達と話を続けた。途中、エマがお見舞いに持ってきてくれたフルーツを皆で食べながら。
奈落のこと。
仲間のこと。
怖さよりも、守れたことを中心に。
将来、この子達は冒険者を志すことになるかも知れない。その時には、"宵闇の月"のような良いパーティに巡り会えるように祈って。
「アベルにいちゃん、こじいんにまたくる?」
小さな子がそう尋ねた。
アベルは一瞬だけ目を丸くし、それから穏やかに笑う。
「うん。ちゃんと元気になったら、また遊びに行くよ」
その言葉に、子どもたちは一斉に笑顔になる。
「やった!」
「約束だよ!」
病室の空気が、ほんのひとときだけ日常に戻る。
エマはその光景を見つめながら、小さく微笑んだ。
「アベルさんって、本当に子どもに好かれますね」
誰に聞かせるでもない声だった。
やがてエリスが手を叩く。
「はいはい、そろそろおしまい。患者は安静時間よ」
「はーい!」
子どもたちは名残惜しそうにしながらも引き上げていく。最後に残ったのは、静かな病室とアベル、そしてエマだった。エマは少しだけ安堵した表情で言う。
「……少し安心しました。あなたが、ちゃんとここにいてくれて」
アベルは静かに頷く。
「まだ、やることはたくさんありそうですけどね」
その言葉に、エマはほんの少しだけ不安げに微笑んだ。それでも今この瞬間だけは、確かに穏やかな時間が流れていた。




