055話 緊急報告会議
学院医務室の一角で、《宵闇の月》とギルド、学院関係者による緊急報告が行われていた。
アベルは別室で治療を受け続けている。
依然として意識は戻っていないが、呼吸は安定し、生存状態は維持されていた。
⸻
「では、報告を始める」
ガルドが口を開く。その場にはギルド職員、学院関係者、そしてアベルを治療した当事者の代表としてセレスティアが参加していた。
「奈落最深部で遭遇したのは、準魔王級と推定される存在だ」
一瞬、室内の空気が凍りつく。
バルドが続ける。
「アラクネ型の悪魔、“ルシィ”。」
リックが低く吐き捨てる。
「正面からやり合って勝てる相手じゃなかった」
トーヴは冷静に補足する。
「魔力量、空間干渉、戦術精度……いずれも規格外だった」
ギルド職員が息を呑む。
「準魔王級……そこまでの存在が奈落に?」
ガルドは短く頷いた。
「少なくとも、そう判断するしかなかった」
セレスティアは静かに記録を整理しながら言う。
「卑怯な手を使ったとはいえレオニス様を打ち破るほどの冒険者が、あそこまでの重症を負ったのですから、信じるしかありません」
その物言いに引っかかったガルドがセレスティアに噛み付く。
「ちょっと待ってくれ姫様。武術大会の事を言っているのなら、卑怯というのは聞き捨てならない。金色の光、あれはアベルの特殊能力で、以前から、ちゃんと制御出来ていた。実際、剣だけ吹き飛ばして、王子様には傷ひとつつけなかっただろ!」
鼻息荒くアベルを援護するガルド。しかし、セレスティアはどこ吹く風で受け流す。
「たとえ勇者の力であっても、ルールで認められていない能力なのだから駄目に決まっています。アレが無ければ、レオニス様はもっと華々しく優勝できていたのに」
一気に険悪になるガルド達とセレスティア。それを学院長がとりなした。
「準魔王級の魔物の話をさせてくれ。今は魔王復活の可能性も考慮しなければならない緊急事態なのだ」
その一言で、ガルドもセレスティアも押し黙り、空気がさらに重くなる。
バルドが仕切り直して言葉を継ぐ。
「戦闘そのものは圧倒的だった。だが、すぐに殺しに来るわけでもなかった」
リックが腕を組む。
「こっちを潰すだけなら、もっと早く終わってた」
トーヴも頷く。
「意図的に戦闘を長引かせていた可能性がある」
そしてガルドが、最後の一言を落とした。
「そいつは自らを四天王の一柱だと言っていた」
室内が完全に静まり返る。
ギルド職員が重く息を吐いた。
「準魔王級に加えて、“四天王”を名乗る存在……」
「情報が錯綜しすぎています」
セレスティアは静かに結論をまとめる。
「現時点では、“準魔王級の存在と交戦し、その目的は不明”。それ以上でも、それ以下でもありません」
学院の医務官長が小さく息を吐く。
「で、その結果がアベル君のあの状態ってわけだね」
リックも肩をすくめる。
「普通の奴なら死んでたぜ。アベルは本当にすげえ奴だよ」
ギルド職員が重く頷く。
「状況はわかりました。この報告は本部に上げます。国家案件として扱われるでしょう」
ガルドは静かに言った。
「それでいい。もう個人で抱えられる話じゃねぇ」
セレスティアは最後に、アベルのいる部屋の方へ視線を向ける。何かを言いかけたものの、結局その場では何も言わなかった。
その場にいた誰もが理解していた。
これは終わった戦いの整理ではない。
“これから始まる事態”の、ほんの入口に過ぎないのだと。




