006話 初めての迷宮探索だけど
特別クラス最初の実習は学院近郊の低級ダンジョン探索だった。
ゲームではアベルがリーダーとなり、七人と初めて共闘するイベント。しかし今回は当然レオニスが指揮を執る。レオニスはゲーム知識を活かし、罠や魔物の出現位置を事前に把握している。そのため探索は驚くほど順調に進む。
「さすが殿下です。」
「もう攻略法をご存じだったのですか?」
レオニスは少し照れたように笑う。
「運が良かっただけですよ。」
もちろん本当はゲーム知識だ。七人のヒロインは自然とレオニスへの信頼を深めていく。
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一方その頃、アベルたち一般クラスは学院の裏山で基礎訓練。ゲームには存在しないカリキュラムだ。
仲間たちは平民や下級貴族ばかりで、どこか泥臭い。
昼休みになると、ガイルたちがアベルを食堂へ誘う。
「特別クラスは豪華な食堂らしいぜ。」
「俺たちはこっちで十分だ!」
皆で笑いながら食べる昼食。アベルも自然と笑う。
(これはこれで悪くない。)
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その日の夕方。特別クラスの探索結果が学院中に張り出される。
「探索時間、歴代最速!」
「やっぱり王太子殿下は違う!」
学院中がレオニスを称賛する。アベルも掲示板を見上げ、小さく拍手を送る。
(すごいな。)
ゲームでは見られなかった第二王子の活躍。追加ディスクでは病弱で表舞台に立たなかった人物が、現実ではこんなにも優秀なのか。そう感心するだけだった。
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一方、レオニスは掲示板の前で群衆に囲まれていた。称賛を浴びるたび、胸が満たされていく。
(そうだ。これが欲しかった。英雄とは、こういうものだ。)
だが、その視線の先には、群衆の外から静かに拍手を送るアベルの姿があった。レオニスは思わず表情を曇らせる。
(なぜだ。なぜ兄上は悔しそうにしない。もっと俺を羨ましく思え。)
その瞬間、レオニス自身も気づかないほど小さな嫉妬が、心の奥で静かに膨らみ始める。
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入学から一か月が経ちようやく一般クラスでも基礎トレーニングを終えて実践演習が始まる。演習では各班に迷宮攻略の課題が与えられる。
特別クラスは学院近郊の「初級迷宮」だが、一般クラスは森での魔物討伐。本来ならそうなるはずだった。しかし、王子で次期生徒会長でもあるレオニスは学院へ一つの提案を行う。
「実力のある一般生徒には、それに見合った課題を与えるべきではありませんか。」
学院側も一理あると判断する。そして、試験で突出した成績を残していたアベルにだけ、通常より難度の高い「灰狼の洞窟」の単独踏査が命じられる。
名目は「特待候補者選抜試験」。周囲は「学院から期待されているのだ」と受け止める。アベル自身もそう考える。
(ゲームにはなかったイベントだけど……。追加シナリオかな?)
疑うことなく挑戦を受ける。
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一方、レオニスは七人のヒロインと共に初級迷宮へ向かう。ここはゲーム序盤の経験値稼ぎに最適な場所だ。魔物の配置も、隠し部屋も、宝箱の位置も本編知識だけで十分把握している。
「こちらです。」
レオニスが先導すると、迷宮は驚くほど順調に攻略できた。
「さすがレオニス殿下。」
「本当に頼りになります。」
ヒロインたちの信頼は少しずつ深まっていく。
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その頃、アベルは一人で灰狼の洞窟の奥へ進んでいた。
(……変だ。)
ゲーム本編には存在しない迷宮。だが、アベルは知っている。これは追加ディスクで解放される高難度ダンジョンだ。
本来、攻略推奨レベルは学院卒業後。単独攻略など想定されていない。
(なるほど。だから誰も来ないのか。)
しかし、アベルは引き返さない。追加シナリオまで遊び尽くした彼にとって、魔物の習性も、隠し通路も、弱点もすべて記憶の中にあった。
「まずは左の分岐だな。」
ゲーム知識と、幼い頃から鍛えられた実力。その二つを武器に、一人で迷宮を進んでいく。
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同じ頃。
初級迷宮では最後の魔物を倒し、歓声が上がっていた。
「これで全員無事ですね。」
レオニスは笑顔で振り返る。
「皆さんのおかげです。」
その言葉にヒロインたちは笑顔を返す。誰もが順調な学院生活を送っていると思っていた。
ただ一人。
今まさに、本来なら数年後に挑むはずの迷宮で命を懸けて戦っている少年のことなど、誰も知らなかった。




