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005話 最初の違和感

 入学式を終えた新入生たちは、それぞれの教室へと向かっていた。


 王立学院は身分と成績によって大きく二つに分けられる。


 王侯貴族や将来の王国中枢を担う者が集められる特別クラス。


 そして、それ以外の生徒が所属する一般クラス。


 本来、身分だけでなく実力も重視されるため、平民でも優秀であれば特別クラスへ進める。それが学院の理念だった。


(……おかしい。)


 アベルは歩きながら考えていた。

 自分の試験結果に納得できないわけではない。

 評価基準は学院が決めることだ。


 だが。


(少なくともゲームでは、俺は特別クラスだった。)


 ゲーム本編だけでなく追加シナリオでも、それは変わらなかった。主人公が一般クラスへ配属されたことなど、一度もない。


 ゲームとは違う。

 その事実だけが胸に引っ掛かっていた。


「まあ……考えても仕方ないか。」


 アベルは小さく笑った。

 ゲームはゲーム。

 現実は現実。


 自分が特別クラスへ入れなかったからといって、世界が終わるわけではない。仲間とは、いずれダンジョンや合同授業で顔を合わせるだろう。 


 そう自分に言い聞かせた。



 一方、特別クラス。

 広々とした教室には八人しかいない。

 ゆったりと配置された机。

 壁には高価な魔道具。


 一般クラスとは比べものにならない設備だった。


「皆さん。」


 教壇へ立った教師が笑みを浮かべる。


「今年の特別クラスは歴代でも屈指の顔ぶれです。」


 生徒たちは自然と互いを見渡す。


 セレスティア。


 リシア。


 クラリス。


 エリス。


 ルナ。


 フェリ。


 ミリア。


 そして。


 レオニス。


「まずは自己紹介を。」


 教師の言葉に、一人ずつ立ち上がる。


 セレスティアは堂々とした王族らしい挨拶。

 リシアは気さくで真っ直ぐ。

 クラリスは商人らしい柔らかな話し方。

 七人はすぐに打ち解け始めた。


 最後にレオニスが立つ。


「レオニス・アルフォードです。」


 穏やかな笑みを浮かべる。


「皆さんと共に学べることを光栄に思います。」


 短いが嫌味がない。

 自然と拍手が起きた。


(完璧だ。)


 レオニスは心の中で頷く。

 ゲームではこの位置にアベルがいた。

 だからこそ…


 自分はアベル以上でなければならない。



 昼休み。


 特別クラス専用の中庭。

 レオニスの周りには自然と七人が集まっていた。


「レオニス殿下は首席だったそうですね。」


 クラリスが感心したように言う。


「いえ。」


 レオニスは控えめに首を振る。


「皆さんも素晴らしい成績でした。」

「そんなことありませんよ。」


 エリスが微笑む。


「殿下の剣術、本当にお見事でした。」

「ありがとうございます。」


 穏やかに笑う。

 その姿は、まさに理想の王太子だった。


 少し離れた場所。


 アベルは一般クラスの教室からその光景を眺めていた。


(やっぱり。ゲーム通りだな。)


 違うのは、輪の中心にいる人物だけ。


 本来なら自分がいた場所。


 しかし、不思議と悔しさはなかった。


(俺には俺の学院生活がある。)


 ゲームでは描かれなかった一般クラス。

 それも案外面白いかもしれない。



「失礼。」


 廊下で一人の男子生徒がアベルへぶつかる。


「あっ、ごめん。」


 書類が床へ散らばった。


「大丈夫?」


 アベルはしゃがみ込み、一緒に拾う。


「助かった!ありがとう!」


 男子生徒は満面の笑みを浮かべた。


「俺、ルドルフっていうんだ!」

「アベルだ。よろしく!」


 その様子を見ていた一般クラスの生徒たちも集まってくる。


「一緒に昼飯行こうぜ。」

「おう!」


 アベルは自然と笑っていた。


(悪くない。)


 ゲームにはなかった出会い。

 ゲームにはなかった友人。

 これも現実なのだ。



 一方、学院長室では学院長がレオニスの前に一枚の成績表を差し出していた。


「殿下。今回の件ですが……。」


 机の上には

 アベル・マリス

 と書かれた試験結果。


 筆記。

 実技。

 魔法。

 すべて最高評価。


「本当に一般クラスでよろしかったので?」


 学院長は静かに尋ねる。

 レオニスは微笑んだ。


「もちろんです。彼は優秀です。ですが、優秀であることと、王国を導く資質は別でしょう。」


 学院長はしばらく黙っていた。


「……承知しました。」


 レオニスは一礼し、部屋を後にする。

 廊下を歩きながら、小さく呟いた。


「まだ始まりにすぎない。」


 アベルを特別クラスから外した。

 それは第一手。


 次は、ヒロイン達との距離をさらに広げること。


 そして、自分だけが彼女たちの”主人公”になることだった。

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