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俺が主人公のはずなんだけど、王子様に全部持っていかれたんですが。  作者: 踊りすがりのおっさん
第1章 運命から外れた男

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004話 選ばれた者、選ばれなかった者

 試験を終えた受験生たちは、それぞれ談笑しながら結果発表を待っていた。


 王立学院の中庭には、春の風が吹き抜けている。


「今年の実技は難しかったな。」

「でも、レオニス殿下はさすがだった。」

「剣も魔法も完璧だったよ。」


 そんな会話があちこちで聞こえる。アベルは噴水の縁に腰掛け、一人で空を見上げていた。


(ちょっと張り切りすぎたかな。)


 ゲームでは学院入学時点のアベルは優秀だった。

 だから試験でも遠慮はしなかった。

 特別クラスへ入り、そこで七人と出会う。

 その未来を疑っていなかった。


 すると。


「失礼。」


 柔らかな声が聞こえた。振り返ると、白い修道服を身にまとった少女が立っていた。


 エリスだった。


「隣、よろしいでしょうか。」

「あ、もちろん。」


 エリスは軽く会釈すると腰を下ろした。しばらく二人とも黙ったまま噴水を眺める。


「……今日は暖かいですね。」

「そうですね。」


 それだけの会話。

 だがアベルは嬉しかった。


(エリスだ。)


 ゲームでは何度も旅をした仲間。

 今はまだ赤の他人。

 それでも少しだけ話せたことが嬉しい。

 そんな時だった。


「エリス嬢。」


 爽やかな声が響く。

 レオニスだった。


 自然な笑顔。

 自然な立ち振る舞い。


「こちらにいらしたのですね。」


「あ、レオニス殿下。」


 エリスは立ち上がる。


「皆さんもお待ちですよ。」


 少し離れた場所には、セレスティア、リシア、クラリス、ルナ、フェリ、ミリアが集まっていた。


「参りましょう。」

「はい。」


 エリスはアベルへ軽く頭を下げる。


「それでは。」

「はい。」


 彼女はそのままレオニスの後について歩いていった。残されたアベルは苦笑する。


(そうだよな。)


 彼女たちは貴族かそれに匹敵する立場。

 自分は平民。


 本来なら接点などない。

 ゲームだから仲間になっただけなのだ。

 少しだけ浮かれていた自分が恥ずかしかった。


◇◇◇


 一方、レオニスたち七人は中庭の別の場所で談笑していた。


「試験はいかがでしたか?」


 レオニスが問いかける。


「問題ありませんでした。」


 セレスティアが微笑む。


「私は少し魔法で失敗してしまいました。」


 ルナが肩を落とす。


「でも十分すごかったよ!」


 リシアが明るく笑う。


 レオニスは一人ひとりへ丁寧に言葉を返す。

 誰にも分け隔てがない。

 誰もが自然と笑顔になる。


(これが主人公ムーブだ。)


 レオニスは内心でほくそ笑む。

 ゲームでは、この位置に立つのはアベルだった。

 だが今は違う。七人は全員、自分を中心に輪を作っている。それだけで十分だった。


 いや。

 もっと欲しい。

 彼女たちの信頼も。

 尊敬も。

 未来も。

 すべて。


◇◇◇


 午後の学院講堂。


 新入生全員が集められていた。

 壇上には学院長。


「これより、クラス分けを発表する。」


 ざわめきが広がる。


「特別クラス。」


 最初の名前が読み上げられる。


「レオニス・アルフォード。」


 当然のように大きな拍手が起こる。


 続いて。


「セレスティア・アルセリア。」


「リシア・ヴァルク。」


「クラリス・ローゼン。」


「エリス・セントラ。」


「ルナ・アークライト。」


「フェリ・ウィンド。」


「ミリア・アルケミア。」


 七人全員、ゲームと同じ特別クラス。


(ここまでは同じ。)


 アベルは静かに聞いていた。


 そして…


(次だ。)


 主人公アベル。


 ゲームでは九人目に呼ばれる。


 学院首席。

 攻略開始。

 その瞬間だった。


「以上。」


 学院長が名簿を閉じた。講堂が静まり返る。


(……え?)


 一瞬、意味が分からなかった。


「続いて一般クラス。」


 学院長は何事もなかったように読み始める。


 十数人目。


「アベル・マリス。」


 母の姓。平民として登録されている名。

 確かに呼ばれた。


 だが、


 一般クラスだった。


 講堂を出た後も、アベルは掲示板の前から動けなかった。何度見ても同じだった。


 特別クラス。


 そこに自分の名前はない。


「そんな……」


 試験で失敗した覚えはない。


 筆記も。

 実技も。

 手応えは十分だった。


 それでも現実は変わらない。


(ゲームと違う。)


 初めてだった。

 ゲーム知識では説明できない出来事。

 胸の奥に、小さな不安が芽生える。


 その様子を、少し離れた場所からレオニスが静かに見つめていた。


 誰にも気付かれないように、小さく息を吐く。


(成功した。)


 表情は変えない。

 王太子としての笑みを崩さない。

 だが胸の内では確かな達成感が渦巻いていた。


(兄上。これであなたは、彼女達とは出会えない。)


 ゲームの最初の分岐は、静かに書き換えられた。


 そして、その事実を知る者は、この学院にただ一人しかいなかった。

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