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俺が主人公のはずなんだけど、王子様に全部持っていかれたんですが。  作者: 踊りすがりのおっさん
第3章 学院の武術大会

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046話 勝利なき勝者

 「静粛に!」


 主席審判の声が、熱気に包まれた闘技場へ響き渡った。アベルの剣先は、なおもレオニスの喉元へ向けられたまま。誰の目にも勝敗は明らかだった。


 だが、観客席から上がる声は次第に一つの方向へ集まり始める。


「さっきの力は何だ?」

「魔法じゃないぞ。」

「学院で教わる技術でもない。」

「危険すぎる!」


 ざわめきが広がる。その時、フェリが立ち上がった。


「審判!」


 闘技場中の視線が彼女へ集まる。


「あの力は規定外です!武術大会で認められているのは身体強化系と防御系の魔法だけです!正体も分からない力で戦うなんて、公平とは言えません!」


 その言葉にルナも続く。


「結界が対応できる保証もない未知の能力です。大会の安全を考えるなら、看過できません。」


 リシアは短く言い放つ。


「失格が妥当です。」


 クラリスも静かに頷いた。


「ルールは全員に等しく適用されるべきです。例外を認めれば、大会そのものの信頼が失われます。」


 エリスも神妙な表情で続ける。


「申し訳ありませんが……私も審判団の再協議をお願いしたいです。」


 ミリアも冷静な口調で補足した。


「未知の力を安全確認なしで使用した以上、競技規則との整合性は確認されるべきでしょう。」


 最後に、セレスティアがゆっくりと口を開く。


「……武術大会は、皆が同じ条件で競う場です。審判団には、公正な判断をお願いしたく思います。」


 これは正論です。何とかレオニス殿下を救うため…ではありません。いいえ、レオニス殿下に傷をつけないことはとても大事で…。


 しかし、頭の中の混乱は一瞬で霧散する。今、大切なのはレオニス殿下だ。それ以外を考える必要はない。



 審判団は協議を始めた。観客席も騒然としている。


「でも、王家の聖剣は使ってたぞ?」

「王家の宝物だから問題ないんじゃないか?」

「そういう規則なんだろ。」

「でもアベルのは聞いたこともない。」



 結界の中。


 アベルは静かに剣を下ろした。反論はしない。ただ、審判を見つめる。

 レオニスも剣を拾いながら、表情だけは冷静さを装っていた。内心では歓喜を抑えきれない。


(よし……この流れならいける。)


 やがて主席審判が立ち上がった。


「協議の結果を申し渡す。」


 場内が静まり返る。


「王家の聖剣は、王国より正式に使用を許可された王家所有の宝具であり、本大会の規則上、使用は禁止されていない。」


 レオニスの表情がわずかに緩む。


「一方、アベル選手の使用した能力は、事前申告のない未知の特殊能力であり、安全性および競技規則との適合性を確認できない。」


 一拍置く。


「よって…


アベル選手を反則負けとする。」


 静寂。


 次の瞬間、会場は大きくどよめいた。


「そんな!」

「勝ったのはアベルだろ!」

「でも規則なら……。」


 賛否入り混じった声が飛び交う。


 レオニスは静かに前へ出る。


「審判団の判断に従います。」


 その姿に観客から拍手が起こる。


「レオニス殿下!優勝おめでとうございます!」


 フェリは満面の笑みで拍手した。


「さすが殿下です!」


 リシアも深く頷く。


「殿下の勝利です。」


 ルナ、クラリス、エリス、ミリアも安堵したような笑みを浮かべる。


 セレスティアも胸を撫で下ろした。


「……おめでとうございます、殿下。」


 レオニスは七人へ穏やかな笑みを返した。


「ありがとう。皆のおかげだ。」


 その言葉だけで、七人は嬉しそうに微笑んだ。



 一方、ガルドは観客席で拳を強く握り締めていた。


「ふざけるな……。」


 バルドが低く唸る。


「勝ったのはアベルだ。誰が見てもな。」


 トーヴは静かに首を振る。


「規則とは便利なものだ。使い方次第で、真実すら覆せる。」


 リックは苦笑しながら肩を竦めた。


「世の中、実力だけじゃどうにもならねぇこともあるってか。」


 その口調は軽い。だが、その目は笑っていなかった。四人の視線は静かにアベルへ向けられる。


 アベルは何も言わなかった。ただ静かに剣を鞘へ納め、審判へ一礼する。


「判定を受け入れます。」


 その一言だけを残し、踵を返す。背中には敗者としての視線が突き刺さる。しかし、その歩みは少しも揺らがなかった。ルドルフはそんな背中を見つめ、小さく笑う。


「飯でも食いに行くか。今日は奢るぜ」


 アベルは振り返らない。会場の客席からは今も罵声や野次が聞こえてくる。だが、アベルは胸を張って前に進む。


 勝利は奪われた。

 名誉も失った。

 それでも、今日の戦いで得たものは、それ以上に大きかったのだ。


 どれほど理不尽な現実が待っていようと、自分には、背中を預けられる仲間がいる。


 その事実だけは、誰にも奪えなかった。

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