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045話 勇者の力

 結界の中。


 アベルとレオニスは再び向かい合う。


 先ほどまでとは違う。

 今、アベルの瞳には一切の迷いがなかった。その視線を受け、レオニスは奥歯を噛み締める。


(勝てない。)


 理解してしまった。

 このままでは負ける。


 補助魔法も、

 秘薬も、

 ゲーム知識も、

 その全てを重ねても、今のアベルには届かない。


(なら……使うしかない。)


 レオニスは静かに左腰の剣へ手を添えた。


 鞘から抜き放ち構えると、その瞬間、剣身に黄金色の紋様が浮かび上がる。

 眩い光が闘技場を包んだ。


「……!」


 観客席がどよめく。


「聖剣だ!」

「王家の聖剣!」

「いいのかよ、伝説級の装備だろ、アレ!?」

「一応、ルール上はセーフなハズだ。」


 王家に代々受け継がれる秘宝。

 王族のみが所持を許される聖剣。

 その真価は、所有者の身体能力と魔力を飛躍的に高めることにある。

 本来なら国家の危機でしか使われない代物だが、レオニスは王太子という立場ゆえに、その使用を許されていた。


 規則違反ではない。

 だが、学院生同士の武術大会に持ち込むには、あまりにも反則じみた力だった。


「さすがレオニス殿下!」

「これぞ王家の力!」


 ヒロインたちも歓声を上げる。レオニスの全身から溢れる魔力は、それまでとは比べものにならなかった。



「これで終わりだ!」


 聖剣を振るう。


 轟音。

 斬撃だけで空気が震え、結界が波打つ。


 アベルは受け止めるが、衝撃で地面を大きく滑った。


(重い……。)


 これまでとは別次元だった。

 身体強化魔法でもない。

 聖剣が所有者の能力を何倍にも押し上げている。


 二撃。

 三撃。

 連撃が止まらない。


 アベルは受け流しながら静かに息を吐いた。


(なるほど。これが王家の切り札か。)


 このままでは勝てない。


 いや。


 勝てる。


 だが、そのためには…


 もう一つの力を使うしかなかった。


 アベルは静かに目を閉じ、胸の奥で眠っていた力へ意識を向けた。


(応えてくれ。俺は、守りたい。)


 その瞬間、

 全身を淡い黄金色の光が包み込む。


 どこか神聖で。

 どこか温かい。

 見る者すべてを圧倒する輝きだった。


「何……?」


 レオニスが目を見開く。

 その気配は聖剣とも違う。

 魔法でもない。

 アーティファクトでもない。


 もっと根源的な、

 英雄の力。

 勇者だけが宿す神授の力。


「これが……。」


 アベルは静かに剣を構える。


「俺の全力だ。」



 次の瞬間


 勝負は終わった。

 聖剣を纏ったレオニスの斬撃を、アベルは片手で受け流す。

 続けて一歩踏み込む。

 速い。

 誰の目にも追えない。

 レオニスが反応した時には、すでに剣は弾き飛ばされていた。

 高く舞い上がった聖剣が結界へ突き刺さる。


 アベルの剣先が静かにレオニスの喉元で止まった。

 完全決着だった。


 誰の目にも、アベルの勝利は明白だった。


 だが、その後、意外な展開を迎えることになる。

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