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042話 決勝

 学院武術大会 決勝戦。


 闘技場を埋め尽くした観客が、最後の一戦を待ちわびていた。


「決勝戦!」


「レオニス・アルフォード!」


「アベル・マリス!」


 二人が結界の中へ歩み出る。


 学院最強を決める戦い。しかし、誰もがレオニス王子の勝利を疑っていなかった。



 試合開始前。


 レオニスの周囲には七人のヒロインたちが集まっていた。


「レオニス殿下。」


 セレスティアが静かに両手を重ねる。柔らかな光がレオニスを包み込んだ。


 防御強化。

 精神安定。

 魔力循環の最適化。


「ご武運を。」

「ありがとうございます。」


 続いてルナが魔法陣を展開する。


「身体強化の補助です。持続時間は十分あります。」

「助かる。」


 ミリアは自ら調合した秘薬を差し出した。


「こちらは身体能力を瞬間的に高める薬です。副作用は最小限に抑えていますがないわけではありませんので、ここぞという時に使ってください」

「了解した」


 エリスは持続型の回復魔法をかける。これにより試合中にダメージを受けても直ぐに回復する。


「神の祝福を…。いいえ、神に等しい存在の殿下に対してそんな祈りは失礼ですね」

「ははは、そんな事はないよ。ありがとう」


クラリスも回復薬や補助薬を確認しながら頷く。

「これで万全です。何が起きてもすぐ対応できます。」

「ふむ、いつもすまないな」

「い、いえ。殿下のお身体を心配するのは当然のことです」


 フェリは拳を握る。


「絶対勝ってください!」


 リシアは短く頭を下げた。


「信じています。」


 七人の想いを受け取り、レオニスは静かに笑う。


「ありがとう。優勝してみせる。」



 一方。


 アベルは一人、静かに試合場へ向かっていた。

 ルドルフが肩を叩く。


「決勝だぞ。緊張してるか?」

「少しだけ。」


 アベルは苦笑した。


「でも、全力は尽くす。」



 結界が展開される。


「始め!」


 開始と同時にレオニスが飛び出した。


 身体強化魔法。

 補助魔法。

 薬による身体能力向上。

 その全てが重なり、これまでで最高の動きを見せる。


 鋭い斬撃。

 連続攻撃。

 ゲーム知識による最適解。


 だが、アベルは冷静だった。

 最小限の動きで受け流し、

 最小限の動きでかわし、

 最小限の動きで反撃する。


「な……。」


 レオニスの表情が僅かに歪む。


(速い…いや…俺より上だ。)


 剣が交わる。

 受けるたびに腕が痺れる。


 補助魔法を重ねても、

 秘薬を飲んでも、

 届かない。


「信じられない……。」


 観客席からも驚きの声が漏れる。


「レオニス殿下が押されてる?」

「アベルって、あんなに強かったのか。」


 ヒロインたちも息を呑む。


「殿下……。」


 セレスティアが思わず祈るように両手を組んだ。



 レオニスは歯を食いしばる。


(まだ本気じゃない。)


 分かる。

 アベルはまだ本気を出していない。

 それでも、自分は押されている。


(ここで負けるわけにはいかない。)


 レオニスは一度距離を取った。ミリアの秘薬を取り出して一気にあおる。それが入っていた小瓶を場外に放り投げてから、再び踏み込む。


 剣と剣がぶつかった、その瞬間…-

 互いの顔が触れそうなほど近づく。


 レオニスの口元だけが、僅かに動いた。


「……お前の母親。」


 アベルの瞳が揺れる。


「今頃、俺の部下が見張っている。」


 誰にも聞こえない声。

 レオニスだけが笑っていた。


「俺を倒してみろ。どうなるかは……分かるよな?」


 アベルの剣が、ほんの一瞬だけ止まった。

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