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040話 正々堂々

「準々決勝、第三試合――始め!」


 審判の合図とともに、結界が淡く輝く。フェリは開始と同時に大きく後方へ跳び、距離を取った。身体強化魔法を纏いながら、素早く弓に持ち替えて構える。


「はっ!」


 放たれた矢が一直線にアベルへ迫る。

 アベルは剣で受け流す。

 金属音が闘技場へ響いた。


 しかし、一射では終わらない。

 二射、三射。


 フェリは一定の距離を保ちながら、休むことなく矢を放ち続ける。


「速い!」

「フェリさんの得意距離だ!」

「近づけないぞ!」


 観客席から声が上がる。アベルは身体強化を最低限に抑え、矢をかわし続ける。何度か間合いを詰めようと試みるが、そのたびにフェリは軽やかに距離を取り、再び矢を放つ。


(やっぱり厄介だ。)


 アベルは静かに分析する。


(この距離を維持されると分が悪い。)


 フェリも手応えを感じていた。


(押してる……!このまま距離を維持すれば。)


 次々と矢を番えながら、レオニスの言葉を思い出す。


『焦らず、自分の得意な距離を押し付ければいい。』


(はい、殿下。)


 フェリの攻撃はさらに鋭さを増していった。



 数分後。


 観客席では誰もがフェリ優勢と見ていた。


「アベル、防戦一方だな。」

「このまま押し切られるか?」


 その時だった。アベルが初めて大きく踏み込む。


「!」


 フェリは反射的に後退する。その瞬間、アベルは剣を大きく横へ薙いだ。


 刃そのものは届かない。

 しかし、剣圧が圧縮された空気となって放たれた。


 轟音と共に目に見えない衝撃が一直線にフェリを襲う。


「きゃっ!」


 フェリは咄嗟に弓を捨て双剣を抜き防御姿勢を取り、防御魔法をも展開する。双剣と結界に守られた身体に傷はない。だが、衝撃そのものは完全には殺せなかった。身体が大きく押し飛ばされる。


 足が地面を離れ――そのまま試合場の結界外へ転がり出た。


 一瞬、闘技場が静まり返る。


 審判が即座に旗を上げた。


「場外!勝者、アベル!」


 ルール通りの決着だった。フェリ自身も立ち上がり、小さく苦笑する。


「……やられた。」


 実力で負けた。それは認めるしかない。

 アベルは静かに一礼した。


「ありがとうございました。」


 フェリも礼を返す。


「ありがとうございました。」


 武人としては、それで終わるはずの一戦だった。


 しかし…


「なんだよ今の。」

「場外狙いか?」

「剣で勝負しろよ。」

「勝てばいいってもんじゃないだろ。」


 観客席の一部から、不満の声が上がる。剣圧で衝撃波ソニックブームを起こした事がわからない大多数の観客には、アベルの空振りをフェリが大きく避けた結果にしか見えていなかったのだ。


「フェリさんの方が押してたじゃないか。」

「最後だけ狙って勝つなんて。」


 次第にざわめきは大きくなっていく。教師たちは顔を見合わせる。


「……ルール上、問題はない。」

「正当な勝利だ。」


 審判も判定を覆すことはない。それでも、どこか釈然としない空気だけが闘技場に残った。アベルは何も言わず、その視線を受け止めながら静かに退場していく。



 続いて行われた準々決勝第一試合。


 レオニスは危なげなく勝利した。身体強化魔法を巧みに織り交ぜた剣術。相手の攻撃を冷静に見切り、鮮やかな連撃で勝負を決める。


「勝者、レオニス・アルフォード!」


 闘技場が歓声に包まれた。


「さすがレオニス殿下!」

「美しい勝ち方だ!」

「見事!」


 試合後、ヒロインたちは自然とレオニスの周囲へ集まる。


「おめでとうございます、レオニス殿下。」


 セレスティアが微笑む。


「圧巻でした。」

「ありがとうございます。」


 レオニスは穏やかに応じる。


「皆さんの応援のおかげです。」

「そんなご謙遜を。」


 ルナが目を輝かせる。


「あれだけ完璧な試合運び、さすがです。」

「殿下、本当に格好良かったです!」


 フェリも敗戦の悔しさを忘れたような笑顔を見せる。


「ありがとうございます。」


 レオニスは優しく笑った。


 少し離れた場所では、アベルが一人、静かに次の試合の準備をしていた。


 誰も彼に声を掛けない。先ほどまで浴びせられていた批判だけが、まだ耳の奥に残っていた。

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