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039話 武術大会開幕

 秋晴れの空の下、王立学院中央闘技場には朝早くから大勢の生徒が集まっていた。


 年に一度開催される学院武術大会。


 剣士、槍使い、拳闘士、魔法戦士――武器の種類は問わない。直接的な攻撃系魔法以外の身体強化系魔法と防御系魔法の使用も認められており、実戦に最も近い形式で行われる学院最大の競技である。


 試合場を覆う巨大な結界が、致命傷となる攻撃を自動的に無効化する。刃が急所へ届く直前で威力を失い、致死性の魔法も霧散する。だからこそ、選手たちは実戦さながらの全力をぶつけ合うことができた。


 闘技場中央では、学院長が開会を宣言する。


「諸君。本日は日頃の鍛錬の成果を存分に発揮してほしい。正々堂々、互いを敬い、武を競い合うことを期待する。」


 万雷の拍手が湧き起こった。



 選手控室。


 レオニスは静かに愛剣を腰へ下げながら、口元に余裕の笑みを浮かべていた。


(武術大会イベント。ここもゲーム通りだ。女性陣の好感度を上げるうえで重要な意味をもつのは同じか、それとも…。ゲームでは優勝する事で皆と関係を盤石になり、後の展開が楽になる仕様だった。)


 大会の流れも、主要な出場者もゲーム通り。対戦カードは主催者に口を訊いて細工したため順当に進めば決勝まで大きな障害はない。そして優勝すれば、学院内での評価はさらに盤石になる。


 視線を向けると、七人のヒロインたちが自然と彼の周囲へ集まっていた。


「レオニス殿下。」


 セレスティアが優雅に一礼する。


「ご武運をお祈りしております。」

「ありがとうございます。」


 レオニスは柔らかく微笑んだ。


「皆さんの期待に応えられるよう努めます。」

「殿下なら優勝です!」


 ルナが力強く拳を握る。


「応援しています!」


 ミリアも笑顔を向ける。


「「頑張ってください!」」


 エリスとクラリスも、それぞれ激励の言葉を送る。


「私も殿下に胸を借りるつもりで頑張ります」

「さすがに殿下には敵わないだろうけど、私も頑張るよ」


 出場するリシアとフェリはストレッチを終えてレオニスと順に拳を合わせる。


 七人の視線は、自然とレオニスだけへ向けられていた。



 一方、控室の隅。


 アベルは静かに装備を整えていた。黒い外套は脱いでいるが、普段と変わらない落ち着いた表情だ。


「よう。」


 ルドルフが近付いてくる。


「目標は?」


 アベルは肩を竦めた。


「目の前の試合を勝つだけだ。」

「相変わらず欲がねぇ。」


 ガイルは苦笑する。


「まあ、お前らしいけどな。」



 試合開始。


 闘技場を覆う結界が淡く輝く。


「第一試合、開始!」


 開始の合図とともに歓声が上がった。


 レオニスは初戦から圧倒的だった。身体強化魔法を滑らかに纏い、相手の間合いへ一気に踏み込む。剣を交えること数合。相手の防御を崩すと、喉元へ寸止めの一撃。結界が淡く光り、勝敗が確定する。


「勝者、レオニス!」


 歓声が響く。


「さすがレオニス殿下!」

「強い!」

「隙がない!」


 二回戦も危なげなく勝利。


 ゲーム知識による最適な戦術と、鍛え上げた身体能力。その実力は他の生徒を大きく上回っていた。



 アベルもまた勝ち進んでいた。


 身体強化は最低限。派手な技も使わない。だが、一つ一つの動きに無駄がない。


 相手の呼吸。

 重心。

 踏み込み。

 すべてを見極め、一瞬の隙だけを突く。


 結界が光るたび、静かに勝者の名が告げられる。


「勝者、アベル。」


 観客席からざわめきが起こる。


「また勝った。」

「何なんだ、あの堅実な戦い方。」

「地味だけど、全然崩れない。」



 フェリも初戦、二回戦を危なげなく突破する。俊敏な動きを活かし、強化魔法を重ね双剣による連撃で相手を圧倒した。


「フェリさんも強いね。」

「さすが特別クラスだ。」


 観客から賞賛の声が上がる。

 フェリは照れくさそうに笑った。


「まだまだです。」

「レオニス殿下には及びませんから。」



 リシアも順当に勝ち上がる。正確な剣筋と堅実な防御。基本に忠実な戦いぶりは教師陣からも高く評価されていた。



 試合は滞りなく進み、出場者は八名となる。


 準々決勝。教師が組み合わせを読み上げた。


「第一試合。レオニス・アルフォード。」


 闘技場が大きく沸く。レオニスは静かに頷いた。


(ここまでは予定通り。)


 そして。


「第三試合。フェリ・ウィンド。」


 フェリが立ち上がる。


「対――アベル・マリス。」


 その名が読み上げられた瞬間、会場に小さなどよめきが広がった。


「お……面白い組み合わせだ。」


 フェリは静かに双剣を握る。視線の先では、アベルも立ち上がっていた。二人は結界の張られた試合場へ歩み出る。


「よろしくお願いします、フェリさん。」


 アベルが穏やかに頭を下げて一礼する。


「ふん。」


 フェリも頭を下げるがその表情は冷淡で、その礼も形式的なものだということは誰の目からみてもわかるほどだった。

 

 フェリの胸に、言葉にならない感情が揺れる。

 勝たなければ。

 レオニス殿下の期待に応えなければ。

 レオニス殿下を脅かす目の前の男を排除しなければ。

 その想いは確かだった。


 だが同時に、高難度迷宮の出口で自分を助けてくれた黒衣の青年の姿が、一瞬だけ脳裏をよぎる。


 しかし、その面影は結界の光に溶けるように薄れていった。


 審判が腕を振り上げる。


「準々決勝、第三試合――始め!」


 結界が淡く輝き、フェリとアベルの一戦が幕を開けた。

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