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358話 影の勇者*

 魔王城地下。


 重い扉の向こうには、巨大な円形の空間が広がっていた。壁面には古代文字。床には複雑な魔法陣。


 そして、その中央にマユミと共に黒い全身鎧を纏った女騎士が立っている。


 兜の奥から、低く抑えられた声が響いた。

 アベルたちは足を止める。


「あと少しで魔王様の完全復活に立ち会えたのだがな」

「完全復活……だと?」


 アベルが眉をひそめる。セレスティア達は真っ青になっていた。


「あれが不完全だったとしたら…もしも完全復活したら……」


 デュラハンは静かに大剣を握った。


「魔王城が手薄だっただろう。それは今も魔族の大半が魔力供給を行い、魔王様の完全復活に必要な魔力を捧げているからだ」


 その言葉にルナが床の魔法陣を見る。


「……この術式。確かに今も大量の魔力が何処かに流れている」

「じきに魔王様が完全復活される。それはもう誰にも止められん。故に私が供給を止めても、なんら問題はないのだがな」


 デュラハンの声に、初めて明確な怒気が混じった。


「だが、問題はなくとも邪魔されたことに代わりはない。侵入者の排除は魔王様から与えられた私の責務でもあるが、数百年もの間、不完全な肉体で耐えてこられた魔王様が、ようやく完全な肉体を取り戻すところに立ち会うことが叶わぬとは……。その落とし前は其方らの命で払ってもらおう!」


 アベルの表情が険しくなる。


 魔王の完全復活。今ここで戦っている間にも、どこかでその復活の儀式は続いている。だが…


「……まだ間に合うかもしれない」


 アベルが短聖剣を抜く。マユミのことも、魔王の完全復活阻止もまだ諦める訳にはいかなかった。


 アベルの隣でリシアも剣を構えた。

 その後ろでセレスティア達も臨戦体制に入っている。


 デュラハンはゆっくりと大剣を持ち上げる。

 マユミも二枚の扇を開いた。


「師匠!」


 穏やかな声。


「偽勇者以外は私にお任せを」

「うむ」


 マユミが胸の谷間から小さな鈴のような魔導具を取り出して魔力を込めると部屋中の魔法陣から骸骨(スケルトン)兵がそこかしこに呼び出され始めた。あっという間にホールのようだった部屋が骸骨の兵士で埋め尽くされる。


 アベルは気持ちを切り替えて、デュラハン達に立ち向かうことを決めた。


「いくぞ!」

「「「「「はい!」」」」」


 一直線にデュラハンに向かうアベル。その後を追うリシア。アベルは一瞬フェイントを入れてからデュラハンに切りかかかるもかわされ、デュラハンには続くリシアが切り結んだ。アベルはそのままマユミに向かう。マユミは戦扇の一つをアベルに向けて、それ以上近づかないように牽制した。

 

「マユミ、どうして信じてくれない?俺がアベルだ!本物だ!!」


 マユミは不思議そうに首を傾げた。


「いいえ、偽物です。だって本物のアベル様は、ここにいますから」

「……なんだと?」


 マユミが目線を地面に落とすと黒い影が浮かび上がってきた。その影は次第にヒトの形を成していきアベルと同じ背格好で固まった。その影にマユミはしがみつき、蕩けるような表情を向けた。


挿絵(By みてみん)


「なんだ…それは!?」

「お父様の秘術で蘇えらせて頂いたのです。まだ完全ではありませんが……近いうちに必ず完全なアベル様を取り戻してみせます」

 

 マユミが影に向ける優しい表情に心が締め付けられる。また、アベルにはゲーム知識で、その影に心当たりがあった。


 シャドウ。対象から影を奪い取り、その者になりすます魔物。第三者には黒い影にしか見えないが、ターゲットとなった人物には、まるで本物のように見える。つまり、今のアベルには影がない。それは、あのシャドウという魔物がマユミに幻影を見せるのに使われている。


「ですから、偽物は消えて下さい」


     ◇


 セレスティアが他のヒロイン達に指示を出して、骸骨兵軍団の対処をしていた。またセレスティアを中心に結界を張って、他のヒロイン達が休んだり体勢を整え直すための場所を確保していた。


 フェリは双剣で近くの骸骨兵を薙ぎ払い、遠目に特に強い骸骨兵が見えたら魔弓術で先に手を打っている。


 ミリアはパワードスーツを操作して近づく骸骨兵達を片っ端から殴り潰している。


 ルナは、それほど威力は強くないものの広範囲に骸骨兵を攻撃する魔法で攻撃して、敵の動きを止めている。


 クラリスは、魔導銃を連射して近づく骸骨兵の脚を破壊し続けている。


 アンジェリカは、卓越した剣技で次々と骸骨兵達を切り伏せていく。


 エリスは広範囲に適応できる聖魔法でアンデッドである骸骨兵達をまとめて浄化し塵へと返していった。


    ◇

 

 デュラハンが一歩踏み出してリシアを吹き飛ばす。

 そして次の瞬間、リシアに大剣が振り下ろされた。


「散開!」


 アベルの声と同時に、全員が左右へ飛び退く。


 轟音。


 床が砕けた。その先にいた骸骨兵達をも巻き込んで、剣尖の余波の強い衝撃波がアベル達を襲う。


 しかし、骸骨兵は倒れても暫くすると周囲の骨を集めて復活し、再び動き始める。結局のところ骸骨兵に一番効果的なのはエリスの聖魔法だった。セレスティアの号令が飛ぶ。


「エリスさんを中心に陣を構成して!」


 戦いはまだ始まったばかりだった。

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