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閑話81話 フェリの苦悩*

 夢魔の館の訓練場。


 クラリスが放った一発の弾丸が、遠くに設置された防御標的を撃ち抜いた。轟音とともに魔力障壁が揺らぎ、分厚い魔鋼板に亀裂が走る。


「……すごい」


 少し離れた場所で見ていたフェリが、思わず呟いた。

 クラリスが銃を下ろし、ミリアが駆け寄っていく。


「成功です! やっぱり勇者の力を着弾時だけ集中させると、通常の徹甲弾とは全然違いますね!」

「ええ。でも三発が限界なんでしょう?」

「そうです。クラリスさん自身の魔力もかなり使いますから」


 フェリは二人の会話を聞きながら、先ほどの光景をもう一度思い返していた。


 クラリスの魔導銃。

 普通なら貫けない防御を、アベルの勇者の力を加えることで突破する。アベルの力が加わるだけで武器そのものの性能が大きく変わっていた。


「……勇者の力」


 フェリは小さく呟いた。


「どうした?」


 隣にいたアベルが振り向く。


「ううん……」


 フェリは少し迷ってから、クラリスの銃を見つめた。


「クラリスの魔導銃って、アベルの勇者の力を使って強くなってるんだよね?」

「そうですね。ミリアさんが色々考えてくれましたから。」

「じゃあ……」


 フェリは自分の武器へ視線を落とした。フェリが使っているのは、近接戦闘用の双剣と魔弓術の弓だ。


「私の武器にも、アベルの勇者の力を使えないかな?」

「フェリの武器に?」

「うん」


 アベルは少し考える。


「できるかもしれない。けど、クラリスの銃とは仕組みが違うから、同じ方法は難しいと思う。」

「そっか……」


 フェリの表情が少し曇った。

 その様子を見ていたミリアが、にやりと笑う。


「フェリさん」

「なに?」

「そういうことを考えるの、嫌いじゃありませんよ」

「本当?」


「はい。クラリスさんの《ブレイカー》だって、最初から完成していたわけじゃありませんから」


 ミリアは机に置かれた設計図を指差した。


「一号、二号、三号……失敗するたびに別の方法を試して、ようやく形になったんです」

「じゃあ……」

「フェリさん用にも、考えてみましょうか」


 フェリの顔が明るくなった。


「お願い!」

「ただし、上手くいったら儲けモノぐらいの気持ちでお願いしますね。」

「もちろん!」


 ミリアはフェリの武器を見る。


「まず、どちらをどうやって強化するか…ですが」


 フェリは少し考えた。


「魔法の矢でなく実体矢を用意すればクラリスと同じように出来るんじゃない?」

「それは私も考えました。ですが、攻撃そのものの威力が魔法の矢に比べてかなり落ちるのと、それだと魔弓術が使えないのではありませんか?」

「うっ……そう言われると確かに……」


 フェリはアベルたちの中でも、正面から力で押し切るタイプではない。むしろ、相手の隙を見つけたり、相手の動きを読み、素早く攻撃に繋げるのを得意としている。


     ◇


「……速さ?」

「そうです」


 フェリが顔を上げる。


「もっと速く動けたらいいと思う」

「なるほど」


 アベルも頷いた。


「フェリは素早いからな。そこがさらに伸びれば、かなり強くなると思う」


 フェリは考え込む。


「でも、どうやったら……」

「ふむふむ。であれば、勇者の力の件は一度おいておいて、その方向での強化を考えてみましょう」


 ミリアが楽しそうに、いくつかのアイデアを挙げていると……


「でしたら!良いものがあります!!」


 いつのまにか現れたメルが後ろから鼻息荒く声をかけてきた。


「メ、メル?いつからここに?」

「今です。通りがかったら面白そうな話をされていたので……。話は戻りますが、速度を上げたいのでしたら、我が一族に伝わる秘蔵の魔導具を試してみませんか?」

「夢魔族の秘蔵の魔導具!!!」


 それにいち早く食いついたのはやっぱりミリアだった。


「見たいです!ぜひ試させて下さい!」

「おいおい。試すのは私だろ……」

「そ、そうでした。すみません。」


 ミリアは顔を赤くしていだが、珍しい魔導具への興味は尽きないようだ。


      ◇


 それからメルに案内された夢魔の館の一室でフェリに貸し出されたのは1着の鎧、いわゆるビキニアーマーだった。


「これを装備すると素早さが30%向上する効果があります。」

「30%も!これは凄い装備ですよ!」

「本当に凄いな……。ちなみに男性用とかは無いのか?」

「残念ながら男性用はございません。ですが、これを装備すれば男性でも素早さは上がると思いますよ?お試しになってみますか?」


 ニヤニヤした顔でビキニアーマーを手渡そうとするメルにアベルはため息をついた。


「……勘弁してくれ。」

「それは残念です。」


 しかし、フェリはそのビキニアーマーを受け取って早速着替えようとブレザーを脱ぎ始めた。


「ちょ、待ってください。まだ、アベル様がいるんですよ?」

「ん?ああ、別に構わないよ。すぐ終わる。」

「そういう問題じゃないんですって!」


 アベルはミリアに部屋を追い出され、暫くすると部屋からビキニアーマーを纏ったフェリが現れた。


「ど、どうかな?」

「似合ってるよ。そういえば学院祭でも似たようなのを着ていたよな。」


 フェリが身体を動かしながら、関節の動きの妨げにならないかや、あたるところがないかを確認していく。


「いや、こっちの方が妙に着心地が良いというか…ちょっとエッチな気分にさせられるというか…」

「すみません。そもそも夢魔のための秘宝なので、そのあたりはご容赦ください」


 そんなビキニアーマー型魔導具を見るミリアの目は輝いていた。


     ◇


 ビキニアーマーの効果を確認するために、フェリとアベルは夢魔の館の中にあるホールにやってきていた。


挿絵(By みてみん)


 アベルは木刀を、フェリも短い木刀2本を双剣のように持って構えている。


「では、行きます!」

「ああ、かかってこい!」


 フェリが姿勢を低くして弾丸のようにアベルに詰め寄った。アベルは大きくジャンプして、その突進をかわす。


(……早い。)


 アベルは直ぐにそれを感じ取った。素早さ3割り増しという効果に偽りは無かったようだ。フェリがアベルのいた場所の床を蹴り、飛び上がってまだ空中にいるアベルに追いつく勢いで飛びかかる。


 アベルは木刀を前に構えて、フェリの木刀による突きを受け止めた。それによりアベルの身体は吹き飛ばされた。それでも何とかバランスを取り戻したアベルは空中で一回転して床に降りる。しかし、その着地地点にフェリはもう向かっていた。


(カン、カカン、カン)


 乾いた木がぶつかる音が何度もホールに響きわたり、いつの間にか皆が集まってフェリとアベルの稽古を見守るようになっていた。


「凄い…」

「フェリ……いつのまにあんなに強く」


 フェリは楽しくなって集中するあまり周囲が見えていなかったが、アベルが木刀をわざと落としてフェリの木刀を手で受け止めると「一旦、休憩にしよう」と提案した。


 気がつけばあたりは暗くなっていて、何時間もぶっ続けで打ち合っていたことに、フェリはそこでやっと気がついた。汗が滝のように吹き出し、喉もカラカラだ。


「ほら、フェリもしっかり水分をとっておけよ」


 ミリアから手渡されたスタミナポーションをがぶ飲みして、ようやく我に返ったフェリだった。


     ◇


「アベルさんの勇者の力をビキニアーマーに一時的にでも付与する事は出来そうですか?」


 ミリアが質問する。


「出来るかもしれないけど、今はまだやめておいた方がいいんじゃないか?」


 直ぐ隣のベッドの上でフェリが顔を顰めていた。


「くっそー。こんな酷い筋肉痛になるなんて思わなかったんだ!」

「やっぱり、少しは回復魔法を使った方が……」


 心配そうにエリスが提案するも、フェリは拒絶する。


「ダメだ!折角の鍛錬が無駄になる。」

「まあ、あのビキニアーマーの速度強化に慣れるのが先だろうな……」


 そして、そんな様子を羨ましそうに見ている脳筋が他に2人。リシアとアンジェリカである。


「メル殿!ぜひ私にもそのビキニアーマーを貸してください!」

「是非私にも!帝国にも、こんなに効果的なトレーニング方法はありませんでしたわ!」


 翌日、フェリと同じビキニアーマーを身につけたリシアとアンジェリカの鍛錬にアベルも付き合わされる事になるのだった。


挿絵(By みてみん)

すみません。色々バタバタしておりまして…

定期投稿にはもう少しお時間をいただくかと。

挿絵(By みてみん)

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