表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/77

036話 勇者への覚醒・前編

 とある冒険者宿の一室。


 「今日は少し深くまで行く。」


 朝食を終えたガルドが、迷宮の地図を広げながら言った。テーブルを囲む「宵闇の月」の五人は、真剣な表情で地図を覗き込んでいる。


「前回見つけた崩落跡の先だな。」


 リックが指で一点を示す。


「あそこだけ妙に魔力の流れが濃かった。迷宮核に繋がっていてもおかしくない。」


 トーヴも頷く。アベルは黙って地図を見つめていた。

 あの場所には、自分も違和感を覚えていた。

 ゲームにも学院の資料にも存在しない領域。


 未知である以上、危険も大きい。

 だが、それ以上に何かがあるという確信があった。


「無理はしない。」


 ガルドが全員を見回す。


「危ないと思ったらすぐ帰る。全員で帰ることが最優先だ。」


「「「「了解。」」」」


 四人の返事が重なった。



 数時間後。

 一行は前回引き返した地点へ到着していた。


 崩落した岩盤の奥には、人が一人通れるほどの裂け目がぽっかりと口を開けている。


「……空気が違うな。」


 リックが小さく呟いた。

 ひんやりとした冷気。

 肌にまとわりつく濃密な魔力。

 呼吸をするだけで身体が重くなる。


「ここから先は未知だ。」


 ガルドは剣を抜いた。


「慎重にな。」


 裂け目を抜けると、視界が一気に開けた。


 巨大な地下空洞。


 天井は見えず、青白い結晶が星空のように無数の光を放っている。その幻想的な光景に、一瞬だけ全員が息を呑んだ。


「……綺麗だ。」


 思わずリックが漏らす。

 だが、その感嘆はすぐに緊張へ変わる。


「待て。」


 トーヴが低く言った。


「何かいる。」


 地面が震えた。


 ゴゴゴ……。


 低い唸り声のような振動。


 空洞の奥で、巨大な影がゆっくりと立ち上がる。


 岩のような外殻。


 巨木のような四肢。


 その胸部には、青白く脈打つ巨大な魔石が埋め込まれていた。


「なんだ、あれ……。」


 リックの声が震える。

 ガルドは険しい表情のまま呟く。


「資料で見たことがある。」

「迷宮守護者……。」

「だが、こんなとこにいるとは聞いてねぇ。」


 守護者はゆっくりと首を巡らせる。

 そして五人を見つけた瞬間、空洞全体を震わせる咆哮を放った。


 轟音だけで岩壁が砕け散る。


「散れ!」


 ガルドの号令で全員が左右へ飛ぶ。

 直後、守護者の拳が地面を叩きつけた。

 爆発したような衝撃が走る。

 土煙の中、アベルは冷静に敵を観察する。


(大きい。だが、遅い。)


 剣を構え、一気に距離を詰める。

 狙うのは胸の魔石。

 しかし...


 ガキィン!


 刃は外殻に弾かれた。


「硬い……!」


 アベルが初めて驚きを見せる。


 その隙を狙い、守護者の腕が振り下ろされた。


「アベル!」


 ガルドが割って入り、盾で受け止める。


 凄まじい衝撃。盾に亀裂が走る。


「ぐっ……!」


「ガルド!」


 リックとトーヴが同時に援護に入る。

 だが守護者は止まらない。


 二撃目。

 三撃目。


 たった数合で、五人は広場の端まで押し込まれてしまう。ガルドは歯を食いしばった。


「勝てねぇ……。」


 その一言は、長年最前線を生き抜いてきた男だからこそ重かった。無謀ではない。現実を見た上での判断だった。


「撤退する!」


 誰も異論はない。

 生きて帰ることが最優先。

 それが「宵闇の月」の信条だった。


 だが、守護者は逃がさない。

 巨大な拳が通路を塞ぎ、唯一の退路を崩落させる。

 轟音とともに岩が降り注ぎ、出口は完全に埋まった。


 静寂。


 誰も言葉を発しない。


 逃げ道は、消えた。


 アベルは崩れ落ちた岩壁を見つめる。

 そして静かに剣を握り直した。


 その胸の奥で、今まで感じたことのない熱が、小さく灯り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ