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350話 戦いの跡

 白銀の光が、ゆっくりと消えていく。

 先ほどまで空を覆っていた魔力の奔流も。


 轟音も。

 炎も。

 すべてが嘘だったかのように静まり返っていた。

 残されたのは、焼け焦げた大地と、ところどころに残る淡い魔力の残滓だけだった。


 そして……

 そこに、魔王軍の姿は残っていなかった。


◇


「……終わった?」


 フェリが恐る恐る周囲を見渡す。


「敵の魔力反応……ありません」


 ルナが目を閉じ、周囲の魔力を探る。


「完全に消えています」

「本当に?」


 ミリアが驚いたように尋ねる。

 ルナは小さく頷いた。


「ええ」

「……やったぁ!」


 フェリが両手を上げる。


「勝った!」


 その声を聞いた瞬間。

 建物の中から、夢魔たちが少しずつ姿を現した。


 最初は恐る恐る、だが次第に人数が増えていく。


「もう……魔王軍はいないの?」

「本当に?」

「倒したの?あの大群を?全部?」


 メルは何も言わず、荒れ果てた周囲を見渡した。

 そして、ゆっくりと息を吐く。


「……終わったのね」


 メルの隣へ、アベルが歩いてくる。


「館は?」

「なんとか、大きな損傷はありません」


 セレスティアが答えた。

 アベルは館を見る。


 外壁の一部は崩れている。

 庭も荒れていた。


 だが、夢魔たちが暮らす場所そのものは残っていた。

 アベルは改めて周囲を見る。


「守れたんだな。」


 だが、アベルの顔には勝利の余韻よりも物悲しさが浮かんでいた。


◇


 その夜。


 夢魔の館では、久しぶりに穏やかな食事が用意されていた。


 壊れた家具を寄せ集め、

 簡単な料理を並べ、

 傷ついた者を治療しながら、

 それでも、皆が笑っていた。


「ここに住んでいていいんだよね?」


 幼い夢魔が尋ねる。

 メルは優しく微笑んだ。


「もちろんよ!ここは私たちの家ですもの。誰にも奪わせないわ」


 その言葉に、周囲から小さな歓声が上がった。

 戦いに勝ったからではない。

 生き残ったからでもない。

 自分たちの居場所を失わずに済んだからだった。


◇


 その頃。


 魔王城の謁見の間。


「……報告いたします」


 魔族の伝令が跪いていた。

 魔王は玉座から静かに見下ろす。


「言え」

「夢魔の館へ派遣した部隊ですが……全滅いたしました」


 謁見の間が静まり返る。

 魔王の目が細くなる。


「あれほどのリソースを投入したのにか?」

「はい」


 伝令は震えながら続ける。


「敵は……極大爆裂魔法を使用したものと思われます」

「……詳細を言え。」

「僅かな生き残りの証言に加えて。火、風、光と空間属性の魔法の残滓が観測されました。これは伝え聞く極大爆裂魔法の特徴と酷似しております。」


 魔王は黙っていた。

 やがて……


「……極大爆裂魔法か。」


 その言葉を聞いた伝令が顔を上げる。


「ご存じなのですか?」


 魔王は答えなかった。

 ただ、玉座の肘掛けを指先でゆっくりと叩いていた。


◇


 魔王の脳裏に、一人の女王の姿が浮かぶ。

 デュラハンが、まだ人間ミユキと呼ばれていた頃に一度発動しかけたそれを滅封したが、当時発動していれば甚大な被害があったかもしれない。


 極大爆裂魔法とは、ミユキが最も得意としていた魔法だったのだ。だが、死してアンデッドとなった彼女から、その魔法は記憶ごと失われた。


 何度試しても、残存するあらゆる記録や書物を読み込ませても、再現させることは叶わなかった。


 だからこそ、魔王は長い間、考えていた。


(どうすれば、あの力を取り戻せる?)


 アンデッド化によって失われた魔法。もし、それを再び使えるようになれば、デュラハンは生前以上の戦力になる可能性すらある。


 その方法は見つからなかった。今日までは。


「……それで?」


 魔王が静かに問う。


「その魔法を使った者は?」


「勇者パーティーと思われます。他にも複数の魔力反応を確認しております」


 魔王の瞳がわずかに輝いた。


「そうか」


 伝令は困惑する。

 約一千の兵が消滅した。それほどの損害を受けたにもかかわらず、魔王の声には怒りよりも、明らかな興味が混じっていた。


「デュラハンを呼べ」


 伝令の顔が強張った。


「デュラハン様を……?」

「ああ」


 魔王は玉座から立ち上がった。


「今度こそ、失われた魔法を取り戻せるかもしれん」


 魔王の視線が遠くへ向く。そこにあるのは、アベルたちへの敵意だけではない。


 かつて失われた一つの力。そして、それを取り戻すための、初めて見つかった手掛かりだった。


「極大爆裂魔法……」


 魔王は静かに呟く。


「まさか、勇者がその鍵を持ってくるとはな」


◇


 一方、夢魔の館。


 夜は静かに更けていく。

 アベルは館の外で空を見上げていた。

 星が見える。


 戦いの跡はまだ残っているが、それでも、ここにはもう、魔王軍はいない。


「……終わったな」


 背後からメルの声がする。


「ええ」


 メルは隣に立った。


「でも、始まったばかりでもあるわ」

「何が?」

「私たちが、ここで生きていくことよ」

「そうだな」


 魔王軍の軍勢を全滅させた事で、次は更に多くの軍勢が攻めてくるであろう事は容易に想像できた。


 だから、アベルは決意する。


「今こそ魔王城に行ってマユミと向き合い……魔王を倒そう。」

なんとかここまでスケジュール通りに投稿間に合いました。


ここから物語はクライマックスに向かいますが、その準備に少しお時間を頂く予定です。不定期に閑話を投稿するかもしれませんが、少しだけお待ち下さい。m(_ _)m

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