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349話 極大爆裂魔法*

 夢魔の館。


 魔王軍の軍勢が押し寄せる中、ルナは館の中央に立っていた。


 周囲では激しい戦闘が続いている。

 それぞれが、自分にできることを続けている。

 それでも敵の数は減らなかった。千人規模の魔王軍は、倒れた兵士の後ろから次々と新たな兵士を送り込んでくる。


 このままでは、いずれ防衛線が崩れる。

 ルナはその現実を冷静に理解していた。


(このままじゃ……勝てない。)


 だからこそ今、自分がやらなければならない。

 ルナは足元へ魔力を流し込んだ。

 地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


 幾重もの円環。

 複雑に絡み合う術式。

 その中心だけが、ぽっかりと空いていた。


「……極大爆裂魔法。」


 ルナが呟く。


 これまで何度も考えてきた。

 単純に爆裂魔法の出力を限界まで高めるだけでは駄目だ。巨大な魔力を一気に爆発させれば、術者自身も巻き込まれる。


 ならば、爆発そのものを制御する。


 炎。

 風。

 光。

 そして、空間。

 それぞれの属性の魔力を別々に集め、最後に一つへ統合する。理論上は可能。だが、必要な魔力量も、制御精度も、術式の規模も、これまでルナが扱ってきた魔法とは次元が違う。


「……やっぱり私一人では、無理だった。」


 しかし、それは敗北宣言ではなかった。

 自分の限界を、初めて正しく認めた言葉だった。


 ルナは振り返る。


「だから……みんなの力を借りる。」


     ◇


 ルナの描いた巨大な魔法陣の前にアベル、リシア、フェリ、アンジェリカが集まっている。前衛の主力が抜けた穴をミリアとクラリス、それからメルと夢魔達が火力で補っているが、そう長くは持たないと思われた。


「アベル。」

「俺は何をすればいい?」


 アベルは迷わずルナの前へ歩み寄る。


「魔法陣の中心に、勇者の力を流して。」

「出力は?」

「最大ではなくていい。安定を優先。あと、空間魔法を制御して。」

「分かった。」


 アベルは短聖剣を地面へ突き立てた。

 白銀の魔力が、ゆっくりと足元へ流れ込んでいく。

 魔法陣が淡く輝いた。だが、数秒もしないうちに術式の一部が激しく揺れ始める。


「……強すぎます!」

「もう少し下げる。」


 アベルは即座に出力を絞った。

 揺れていた術式が、徐々に安定していく。

 ルナは目を細める。


「……やっぱり。」

「何か分かったか?」

「勇者の力は、ただ出力が高いだけじゃない。」


 ルナは魔法陣を見つめた。


「構造そのものが安定している。巨大な術式の中心に置けば、全体の基準点にできる。」


 アベルはそれ以上何も言わず、魔力を一定に保った。

 白銀の光が魔法陣の中心で静かに脈動する。


「……成功。」


 ルナの声が、わずかに弾んだ。


「次は、アンジェリカ殿下。」

「はい。で、何をすればよろしいのでしょう?」

「これから、ここに炎、風、光、空間の4種類の魔力が集まります。その魔力の流量を監視して、一定値を超えたら余剰分を別系統へ逃がして下さい。」


 アンジェリカは魔法陣の1箇所を見て頷いた。


「それなら任せてください。」

「ただし、余剰魔力は捨てないで。」

「ええ。循環させます。」


 アンジェリカの手が魔法陣に触れる。

 すると、複数の魔力回路が展開された。流れ込んだ魔力が制御魔法陣へ吸収され、必要な量だけが再び術式へ戻っていく。


「これなら大丈夫そうよ。」


 アンジェリカは嬉しそうに笑った。


     ◇


「次。」


 ルナは魔法陣を見回す。


「フェリ。」

「待ってたよ!」


 フェリが駆け寄ってくる。


「風で魔力の流れを整えてほしい。」

「魔力を、風みたいに流すの?」

「そう。属性ごとの魔力がぶつからないように、一定方向へ循環させる。」

「分かった!」


 フェリは両手を広げた。


「じゃあ、私の風に任せて!」


 風が渦を巻き、魔法陣の周囲を回り始める。

 魔力が風に乗って循環する。


 そこにルナの炎の魔力とリシアの光の魔力、それと周囲の自然魔力。それらが一つの流れへ組み込まれていく。


「……綺麗。」


 ルナが思わず呟く。


「ほんと?」


 フェリが嬉しそうに笑う。


「うん。すごく…。」

「えへへ!」


 風の流れがさらに整った。


     ◇


「リシア、もう少し光の魔力の出力を下げて!」

「今、やってる!」


 だが、元々感覚派で意識下での魔力操作がそれほど得意でないリシアには、少し厳しい注文だった。


 アベルがリシアをフォローする。


「リシア、目の前に10mぐらいの岩があるのを想像して。で、それを刀で真っ二つにするのをイメージじながら魔力を出力するんだ。」

「……こう?」

「そうだ。それでいい。」


 リシアの顔がぱっと明るくなった。


     ◇


 魔法陣の中心。


 すべての準備が整い始めていた。

 アベルの白銀の力が核となり、ルナとフェリとリシアの魔力が紡がれて、アンジェリカの制御が全ての魔力を循環させる。


「……見える。」


 ルナの頭の中に、完成した術式の構造が浮かび上がる。


 これまで学んできた魔法理論。

 アベルと語り合った魔法。

 精霊から学んだ魔力の扱い。

 帝国で見た魔導技術。

 仲間たちから受け取った力。

 それらが一本の線として繋がっていく。


「……そういうことだったんだ。」


 ルナの目から迷いが消えた。

 魔法陣がさらに大きく広がる。


「みんなの力を、正しく繋げば……。」


 中心から白銀の光が立ち上がった。


「それが……この魔法。」


 ルナが杖を掲げる。


「アベル。」

「分かってる。」


 アベルが勇者の力をさらに注ぎ込み、魔力の奔流が魔法陣へ流れ込む。そして、ルナが最後の術式へ手を伸ばした。


「――接続。」


 すべての魔法陣が一つになった。

 大地が震える。

 森の木々が揺れる。

 空気そのものが震動する。

 魔王軍の兵士たちが、一斉に空を見上げた。


「な、何だ……?」


 館の上空に突如現れた巨大な魔法陣から、中心部の館を除いた360°の周囲に何かがが落ちていく。


 炎でもない。

 光でもない。

 風でもない。

 すべてが混ざり合った、純粋な破壊のエネルギー。


 ルナは杖を握り締めた。


「……発動。極大爆裂魔法。」


 巨大な魔力の塊が、ゆっくりと魔王軍へ向けて形を整えていく。それは、この場にいるすべての者の力を繋ぎ合わせて生まれた、誰も見たことのない魔法だった。

注目度(連載中) 19位になりました。

ご愛読ありがとうございます。

挿絵(By みてみん)

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