342話 精気を喰らう悪魔*
黒い霧が、森を覆っていた。
夢魔の館を中心に広がったその霧は、ただ視界を奪っているだけではない。空気そのものから、力を奪っていた。
「……っ」
館の前にいた若いサキュバスの一人が膝をつく。
「身体に……力が入らない……」
別のサキュバスも胸元を押さえる。
「精気を吸われてる……!」
メルの表情が険しくなる。
「全員、館の中へ!」
夢魔たちが慌てて後退する。
しかし、霧の向こうから低い笑い声が響いた。
「逃がしませんよ」
現れたのは、先ほどのインキュバスだった。
黒い翼を広げ、その身体から濃密な魔力を放っている。
「サキュバスにとって、この霧は毒と同じです。長くいればいるほど、あなたたちは弱っていく。そして、弱ったところを私がいただく。そうすれば、すぐに私のコレの虜になりますよ。」
メルが睨みつける。
「……下劣な悪魔ね」
「褒め言葉として受け取っておきましょう」
インキュバスは笑った。
◇
「エリス!」
「はい!」
エリスが両手を広げる。
白い魔法陣が館の入口を包み込んだ。
「生命保護結界を張ります!」
光の壁が生まれ、黒い霧の侵入を押し返す。
だが、
「……っ!」
エリスの顔が苦しそうに歪む。
「結界が……削られています!」
黒い霧が光の壁へ触れるたび、結界の表面から魔力が剥がれていく。
「どれくらい持つ?」
セレスティアが問う。
「しばらくは持たせられますが…。」
エリスは歯を食いしばる。
「それまでに、あの悪魔を止めないと……!」
「分かった」
セレスティアが前へ出る。
「私が結界を強化します。」
しかし、黒い霧の効果はそれだけではなかった。
「……なんだか、私…変な気持ちに…なってきました。」
セレスティアが頬を紅く染めて、何かに必死に耐えている。上気した溜め息が溢れ、今にも倒れそうなぐらい足元がふらつき始めていた。
「ふはははっ。この霧はサキュバスには毒も同然だが、ヒト族には極上の媚薬として作用するのだ。そこの女は発情し、もう欲しくて堪らなくなっているはずだ。」
「ティア!」
アベルが駆け寄ってセレスティアを支える。抱き止められた形になったセレスティアは目がトロンとしていて、正気でないのは明らかだった。
「アベルさまぁ♡」
アベルにしなだれかかるセレスティア。だが、そんな状態でも結界の維持強化は続けていた。
「すまない、ティア。少し待っててくれ。」
「はぁい♡」
しゃがみこんで身体を弄りだしたセレスティアを残してアベルは切り込んでいく。
◇
「くそっ!あの黒い霧の中じゃ魔弓術が使えない!」
フェリが何度か矢を放つが、黒い霧に触れた瞬間に失速して落ちてしまう。
「ルナ!」
「分かってる」
ルナは霧の魔力を解析していた。
「この霧は単純な吸収魔法じゃない。周囲の精気を一度集めて、あの悪魔の身体へ送っている。でも、霧そのものを消すには術式の中心を破壊しないといけない」
「その中心は?」
クラリスが尋ねる。
ルナはインキュバスを見る。
「たぶん、あいつ自身」
「厄介ですわね」
クラリスが魔導銃を構えた。
「では、狙い撃ちます。」
◇
リシアとアアンジェリカが真っ先に飛び出した。
黒い霧を切り裂き、インキュバスへ迫る。
「アンジェ!リシア!気をつけろ!!」
「「はぁっ!」」
2人の剣が振り下ろされる。
インキュバスは左右の腕でそれぞれを受け止めた。
衝撃で地面が砕ける。
「ヒト族の剣士ですか」
「サキュバスよりは、こちらの方が食べやすそうですね」
舌舐めずりをしていやらしい笑みを浮かべて視線を送ってくるインキュバスに背筋がゾッとするアンジェリカとリシア。
「ふざけるな!」
「悪魔なんかに食べられるものですか!」
リシアとアンジェリカが剣を押し込む。
だが、外装を切り裂き刃がインキュバスの皮膚に触れた瞬間。
「「……っ!」」
リシアとアンジェリカの身体から力が抜けた。インキュバスの身体の傷口から黒い霧が噴き出して2人の身体にまとわりつき、一気に発情させたのだ。
「な……♡」
「あっ……♡」
膝が落ちる。
「リシア!アンジェ!」
アベルが叫び、インキュバスが笑う。
「ははは。さあ、貴女たちの全てを曝け出しなさい。そして恥ずかしいポーズで私にアピールするのです。上手く出来たらご褒美をあげますよ。」
リシアとアンジェリカは必死に耐えようとした。しかし、インキュバスの言葉が発情して訳がわからなくなった心に溶け込んでいく。
気がつけば剣を手放して、服を脱ぎだしていた。
「アンジェ!リシア!しっかりしろ!」
アベルが慌ててアンジェとリシアのカバーに入る頃には2人は既に上着を脱いでしまっていた。
「あれぇ……アベルさまぁ♡」
「うふっ♡アベルどのぉ♡」
2人共完全に目が据わっている。そして物欲しげに身体をくねらせて、下着まで脱ごうとしていた。アベルは2人を担いで下がる。
インキュバスは不敵な笑みを浮かべながら、それを見ているだけだ。




