閑話76話 未来に向けた第一歩*
ミリアは、夢魔の館の広い一室にいた。
その顔には、隠しきれない笑みが浮かんでいる。
「……できた」
目の前にあるのは、これまで彼女が作ってきた魔道具とは明らかに異なるものだった。
金属製のフレームと巨大な金属製の腕。
脚を覆うための外骨格とそれを動かすための人工筋肉。
背中には魔力供給用の魔導機構が取り付けられ、関節部分には小型の魔力駆動装置が組み込まれている。
まだ、そこまで巨大な機体ではない。人間一人が身につけることを前提とした、大型の鎧に近い。しかし、それこそがミリアにとって大きな一歩だった。
「これが……私の次の一歩」
ミリアは装甲に手を触れる。
彼女には、ずっと先に見ているものがあった。
人が乗り込み、人の力では到底扱えないような巨大な力を操る人型機械<。いずれ作りたいと思っている、搭乗型の巨大魔導兵器。
けれど、そのためには越えなければならない壁がいくつもある。大型化すれば魔力消費が増える。出力を上げれば機体そのものが耐えられなくなる。そして何より、人間の動きを機械へ伝えるための制御が難しい。
だから、まずは小さな一歩から始めることにした。
脚部は人間が直接身につけて動かす。しかし、自分自身の身体を動力源とするのではなく、魔導機構によって身体能力を補助する。
いわば、搭乗型魔導兵器へ至るための前段階。
「……パワードスーツ」
ミリアは、その名前を口にして嬉しそうに笑った。
そして、その日の午後。
「アベル様!」
食堂にいたアベルに、ミリアは勢いよく駆け寄った。
「どうしたんだ、ミリア?」
「見てください!」
ミリアが指差した先、窓の外に、完成したパワードスーツが立っている。ミリアはアベルを連れ出してパワードスーツの前にまで連れてきた。
「……これは?」
「私が作ったんです!」
ミリアは胸を張った。
「前に作った魔導機械を改良して、もっと出力を上げて、それをヒトが操作出来るようにしたんです。」
「ここに入るのか?」
「そうです!」
ミリアは待っていましたと言わんばかりに頷いた。
「まだ最終ゴールじゃないですけどね」
「最終ゴール?」
「本当はもっと大きくて、人が中に乗り込んで操縦する魔導機械を作りたいんです。それで最終的には、私が作った機械に乗って戦えるようにしたいの」
ミリアの目が輝いている。
「でも、そのためにはいきなり巨大な機械を作るより、まずは人間の動きを機械で補助するところから始めたほうがいいと思って」
「なるほど」
「だから、これはその第一段階」
ミリアは装甲を叩いた。
「私の夢への第一歩」
そう言ったミリアの表情を見て、アベルも自然と笑った。
「すごいな」
「でしょ?」
「実際に動かせるのか?」
「もちろん!」
ミリアは待っていたと言わんばかりにパワードスーツに乗り込んだ。
「見てて」
魔導機構を起動すると、装甲の各部から小さな駆動音が響いた。
ミリアが腕を動かす。
すると装甲の腕も、ほとんど遅れることなく動いた。
脚を前に出すと魔力による補助が働き、ミリアの動きを力強く支えている。
「おお……」
アベルが感嘆の声を漏らす。
「どう?」
「ちゃんと動いてるな」
「それだけじゃないわ」
ミリアが拳を握る。
「ちょっと離れてて」
アベルが数歩下がる。
「いくわよ!」
ミリアが床を蹴った。
次の瞬間、装甲の補助によって身体が一気に前へ進み、用意した大きな岩へ巨大な棍棒を叩き込んだ。
大きな音とともに岩が真っ二つに割れた。
「……結構な威力だな」
「普通の人よりずっと強いでしょ?」
「これならギガントオーガやサイクロプスとでも戦えそうだ」
その言葉を聞いた瞬間、ミリアの顔がぱっと明るくなった。
「本当!?」
「ああ。もちろんリシアやフェリたちみたいに最前線で戦うのは難しいだろうけど、これなら魔物の攻撃を受け止めたり、弱い相手なら自分で倒したりできそうだしな」
「そっか……」
ミリアは自分の腕を見つめる。
「じゃあ、私も……」
ミリアが嬉しそうに笑った。
「アベルの役に立てるね」
「え?」
「今まで私は、魔道具を作ることでは役に立てても、戦うことではあまり役に立てなかったでしょう?」
「そんなことないだろ」
「でも、アベルが危ないときに、私は後ろから見ていることしかできないことも多かった」
ミリアは拳を握った。
「だから、もっと役にたちたかったの」
「ミリア……」
その言葉には、ミリアの想いが込められていた。
「わかったよ。今後はいろいろ頼らせてもらう。」
ミリアの頬が赤くなる。
「……本当?」
「ああ。でも、無茶はするなよ?」
「わかったわ。」
嬉しそうに視線を逸らしたあと、再びパワードスーツを見上げた。
「もっと改良する」
「もう次のことを考えてるのか?」
「当然でしょう」
ミリアは笑った。彼女の目には、まだ見ぬ未来の機体が映っているようだった。




