339話 恋人ゲーム*
夢魔の館の一室。
そこには、アベルと七人のヒロイン、そしてアンジェリカに彼女の双子メイド、ソラムとソレムの10人が集められていた。
部屋の隅には、まだ目を覚まさないメアが横たわっている。その様子を確認したメルは、全員に向かって明るく笑った。
「それでは、これからゲームを始めたいと思います!」
「ゲーム?」
アベルが首を傾げる。
「はい!」
メルは元気よく頷いた。
「もちろん、ただ遊ぶわけではありません。今回のゲームには、とても大切な目的があります。それはゲームを通して生じる甘酸っぱくて蕩けるような高品質な精気をメアに届けることです。」
メルが、眠ったままのメアへ視線を向ける。
「今のメアは、精気を使いすぎて体内の蓄積がほとんどありません。……おや?いつのまにか……濃厚な精気が結構、補充されていますね……。まあ、それでも、まだまだ足らないので、その影響で精気の循環がかなり不安定なんです。」
「そうなのか」
「はい。そこで、アベル様達から少しずつ精気を分けてもらいらいと企画しました。」
アベルはメアを見た。
「俺達の精気で回復できるのか?」
「はい。ただ、単純に近くにいるだけでは効率が悪いんです」
メルはそこで一度言葉を切り、意味ありげに笑った。
「相手との距離が近くなったり、楽しい、嬉しい、恥ずかしいといった強い感情が生まれたりすると、精気の流れが活発になります。そして、互いの親密度が高いほど、より質の高い精気を作りやすくなるんです」
「なるほど」
アベルは真剣な顔で頷いた。
「それでゲームか…。まあ、メアの回復に役立つなら、どんなゲームでもやってやるさ。」
「よくぞ言ってくれました!」
メルは満面の笑みを浮かべた。
「では、アベル様と皆さんが一対一でゲームをして、楽しく精気を放出して頂きます!」
「分かった」
アベルは素直に頷いた。だが、その説明を聞いていたミリアは、少しだけ怪訝そうな顔をしていた。
「……それだけ?」
「はい?」
「なんだか、メルさんと後ろの夢魔さん達がものすごく嬉しそうなのが気になるんだけど……。」
メルの笑顔がさらに深くなる。
「それは……残った精気を……。」
メルが周囲を見る。他の夢魔たちも期待に満ちた顔でこちらを見ていた。
「私たちも少し味わわせていただこうかな、と」
「……」
アベルは沈黙した。
「メアのためなのか、君たちのためなのか分からなくなってきたぞ」
「両方です!」
メルは即答した。
「メアさんの回復が最優先です。その上で、私たちもご相伴にあずかる。誰も損をしない素晴らしい計画です!」
「まあ、メアが回復するなら何でもいい。早く始めよう。」
アベルは納得したような、していないような顔をした。
「ありがとうございます!」
メルは嬉しそうに手を叩いた。
こうして、妙なゲーム大会が始まった。
◇
「最初はクラリス様です!」
メルが取り出したのは、色とりどりの円が描かれたマットだった。
「これは本娼館の伝統的遊具。その名もツイ⚪︎ターゲームです!ルールは先ほどお伝えした通りです。」
「……。」
クラリスがマットを見る。
「では、アベル様と二人でお願いします」
「分かりました」
クラリスは少し緊張した様子でマットへ上がった。
それからアベルも同じマットに上がりゲームが始まった。
「右手、赤!」
メルの指示に従ってアベルが手を伸ばす。
「クラリス様、左足、青!」
クラリスも足を置く。
「次、アベル様、左手、黄色!」
「こうだな」
「クラリス様、右足、緑!」
二人の身体が少しずつ近づいていく。
そして数回後。
「……っ」
クラリスの顔のすぐ前に、アベルの顔があった。
「クラリス?」
「な、何でもありません」
「顔が赤いぞ」
「これは、その……運動しているからです」
「そうか」
アベルは素直に納得した。
クラリスは思わず目を逸らした。
「……本当に、この人は……」
小さな呟きは誰にも聞こえなかった。
◇
「次はミリア様!」
ミリアの前に置かれたのは、一本のストローが二つの飲み口につながった特殊な魔道具だった。
「……メルさん」
「はい?」
「これは何?」
「二人で一つの飲み物を飲むための魔導具です!」
「それは見れば分かるわよ」
ミリアは頭を抱えた。
「どうしてこれがゲームなの?」
「飲んだ量の多い方のストローがより強く発光する魔導具になっておりまして、たくさん吸った方の勝利です。」
「……。」
結局、ミリアはアベルと向かい合う。
二人でストローをくわえ、ジュースを飲み始めた。
「……」
「……」
距離が近い。
近すぎる。
ミリアの顔が赤くなっていく。
「アベル様……」
「どうした?」
「これ、恥ずかしくないんですか?」
「ゲームだと割り切れ。」
「……そういうところですよ」
ミリアは小さくため息をついた。しかし、その表情にはどこか嬉しそうなものが浮かんでいた。
◇
「続いてはリシア様です!」
今度は大きな柔らかいボールが用意された。
「手を使わずにボールを協力して運ぶゲームです!」
「どうやって運ぶんですか?」
「身体で挟んでください!」
「……。」
「対戦相手にはソラムさんとソレムさんにお願いします。」
「「私たちも、アベル様とペアを組みたいんですが…。」」
「それは、また別の機会でご用意しますから…。」
「「わかりました。」」
アベルとリシアはボールを胸の間に挟み、ゴールへ向かって歩き始める。
だが、ソラムとソレムは双子らしく息が合っているのと、大きな4つの山にいい感じに挟まったボールが上手く固定され、あっという間にゴールした。
一方、アベルとリシアは…数歩進んだところでボールが落ちた。
「あっ」
「もう一度です!」
また落ちる。
「難しいですね」
「はい……」
三度目。今度こそ二人の身体の間に上手くボールを挟み、慎重に歩く。
「リシア、少し右だ」
「こ、こうですか?」
「そう。そのまま」
自然と身体が密着する。
リシアの頬が赤くなった。
「……アベル殿」
「ん?」
「近いです」
「近くないとボールが落ちるぞ」
「そうなんですけど……」
リシアは恥ずかしそうに俯いた。
◇
「次はフェリ様!」
メルが細長い菓子を一本取り出した。
「このお菓子を二人で両端から食べていきます。より多く食べた方が勝ち、あるいは先に菓子から口を離した方が負けです!」
「……」
フェリが固まった。
「これって……」
「定番の……ただのゲームですよ!」
メルは笑顔だった。
「ほ、本当に?」
「本当です!」
フェリはアベルと向かい合い、恐る恐る菓子をくわえた。
二人で少しずつ食べていく。
距離が縮まる。
「……」
「……」
フェリは真っ赤になっていた。
しかし、途中から表情が変わった。
(……負けません)
(そこまで張り切らなくても)
(絶対勝つ)
残りが短くなり、アベルの顔が近づく。
フェリは目を閉じかけたが、ぎりぎりで顔を逸らした。
「フェリ様の負けです!」
「うぅ……」
フェリは顔を覆った。
「でも……楽しかったです」
「俺も楽しかったぞ」
「……!」
フェリの耳まで赤くなった。
◇
「次はエリス様です!」
エリスの前に用意されたのは、耳かきだった。
「……これは?」
「膝枕で耳かきです!アベル様が最後まで耐え切れたらアベル様の勝利です。」
「まあ……」
エリスが微笑む。
「では、アベル様。どうぞ」
「ああ」
アベルはエリスの膝へ頭を乗せた。
「……」
エリスの身体が少し固まる。
「痛くないようにしますね」
「頼む」
エリスが優しく耳かきを始める。しばらくすると、アベルの表情から力が抜けていった。
「……気持ちいいな」
「そうですか?」
「それになんか、いい匂いがするし……。」
「!!!!!」
エリスは真っ赤になっているのを誤魔化すようにアベルの髪を撫でて視線そ遮った。一方、アベルはエリスの太ももの感触を頬で感じて恥ずかしくなるを必死で耐えて、耳かきをやり終えた。
その光景を見ていたセレスティアが小さく呟く。
「……私も次は耳かきを……」
◇
「続いてはルナ様です!」
ルナが案内された先には、小さなサウナがあった。
「こちらで我慢比べをして頂きます。」
「面白そう」
バスタオルを纏ったアベルとルナが中へ入る。
最初は普通に会話していた。
「極大爆裂魔法の進捗はどうだ?」
「かなりいい感じ。その先にある新しいアイデアも、もうすぐ完成しそう。」
しかし時間が経つにつれて、二人の言葉は減っていく。汗が流れる。
それでも二人とも出ない。
「……まだ大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「私も」
さらに時間が経つ。
「……」
「……」
外で待っていたメルが苦笑する。
「引き分けにしますか?」
「……これを脱げば、まだいける」
ルナがバスタオルを脱ぎかけたので反則負けとなった。
「……そんなルール聞いてない。」
◇
「次はセレスティア様!」
そこにあるのは円形のリング。
「競技はレスリングです!」
「まあ!アベル様と組み合えるのですね?」
セレスティアの目が輝く。そして早速セレスティアは用意されたウェアに着替えて嬉しそうにマットへ上がった。
「では、お願いします」
「お手柔らかにな。」
「うふふ。こちらこそ。」
開始と同時にセレスティアがアベルへ組みつく。
「っ……!ティア……どれだけの身体強化魔法を使ってるんだ?」
「20個ほどです。でないと、全く勝負になりませんから。」
(奴隷の私がアベル様を合法的に押し倒せる、このまたとない機会を堪能するためなら、手段を選んでる場合ではありませんもの。)
二人は本気で押し合う。転がり、体勢を入れ替え、また立ち上がる。
「まだです!」
「分かった」
結局、組んず解れつを繰り返して、最後まで決着はつかなかった。
「是非、夜にもう一度、再戦をお願いします!」
セレスティアは満足そうに笑って言った。
◇
「そして最後はアンジェリカ様!」
屋敷内の屋内プールに設置された特設会場に、アンジェリカとアベルは水着姿で現れた。アベルの水着姿にセレスティアと夢魔たちギャラリー達の目が輝く。
「これからやっていただくのは……水上尻相撲です!」
「「…。」」
水上に浮かべた足場の上で、二人が向かい合う。
「落ちた方が負けだな?」
「はい!」
アンジェリカが勢いよくお尻を突き出してアベルを押す。
「おっと!」
アベルが耐える。
今度はアベルが押し返す。
「ぬぅっ!」
足場が大きく揺れる。
「負けないです!」
「俺もだ!」
二人はお尻をぶつけ合って押し合った。
そして…
「わっ!」
「おっと!」
二人揃って水の中へ落ちた。
一瞬の沈黙。次の瞬間、アンジェリカが笑い出した。
アベルも笑う。
「もう一度やりましょう!」
「いいだろう、望むところだ!」
水上では、二人の再戦が始まった。
◇
こうして八人+二人とのゲームは終わった。アベルの周囲には、いつの間にか全員が水着に着替えて集まって、アベルに絡んでいた。その時……
「……う……」
プールサイドに置かれたデッキチェアから声がした。
全員が振り返る。そこには、ずっと倒れていたメアがいた。
「メア?」
アベルが近づく。メアはゆっくりと目を開けた。
「……私…どうしてたの……?」
「倒れてたんだ。吸精をずっとしてなかったんだろ?」
「そう……」
メアはぼんやりと周囲を見回す。
そして目の前の光景を理解した。
アベルを中心に、10人の水着姿の少女たちが集まっている。その後ろには、扇情的な衣装を身につけた夢魔達もいる。
「…………」
メアは大きく息をすった。甘酸っぱい精気が胸一杯に広がる。その行為のイメージと共に……。
そして、ゆっくりと身体を起こした。
「……私が倒れてる横で…何をしていたの?」
メアのこめかみがぴくりと動いたが、アベルはきょとんとした。
「メアに精気を渡すためのゲームだ……。どれも、メルが考えてくれたんだ」
アベルは悪びれもせず説明する。
「皆も協力してくれたし、俺もとても楽しかった」
「…………」
メアは精気から回収されたイメージで……恋人同士がやるようなゲームを皆とやっているところを見せつけられた。そして、自分はそのすぐ横でずっと倒れていただけだ。
「……」
数秒後。
「私が倒れてる横でイチャイチャすんなぁぁぁ!!」
夢魔の館に、メアの絶叫が響き渡った。
アベルは本気で不思議そうな顔をした。
「ただのゲームだぞ?」
「そういうところよ!!」
メアのツッコミが、再び夢魔の館に響き渡った。




