035話 順風満帆の攻略
翌週、特別クラスは実技演習として、学院管理下の中級迷宮へと足を踏み入れていた。
難易度は決して低くない。だが、最前線の冒険者が挑む高難度迷宮と比べれば、安全性は格段に高い。何より、この迷宮にはレオニスが知り尽くした「ゲーム本編」の知識が通用した。
「次の分岐は左だ。」
迷うことなくレオニスが進路を示す。
「右にも道がありますけど……?」
ルナが首を傾げる。
「右は行き止まりだ。時間の無駄になる。」
レオニスが断言すると、誰も異論を挟まない。
実際、その通りだった。少し進んだ先で、右側の通路が崩落しているのが見えた。
「本当だった……。」
フェリが感心したように呟く。
「やっぱりレオニスはすごいね。」
レオニスは照れたように笑う。
「少し調べてきただけさ。」
もちろん、それは建前だった。彼はゲームの知識をそのまま利用しているだけである。
さらに奥へ進むと、魔物が現れる。
「来るぞ。」
レオニスの声に合わせ、全員が自然に動いた。
リシアが先陣を切り、フェリが横から援護する。
「右をお願い!」
「任せて!」
二人の剣が交差し、一体目の魔物を仕留める。
その間にセレスティアが後方から魔法陣を展開した。
「左側を拘束します。」
氷の鎖が魔物の足を絡め取る。
「今です。」
ミリアが銃型の魔導具を起動し、魔力弾を放つ。
拘束された魔物が吹き飛び、最後はルナの風魔法が止めを刺した。
「やった!」
ミリアが嬉しそうに笑う。少し遅れてエリスが全員へ回復魔法を施す。
「皆さん、お怪我はありませんか?」
柔らかな光が傷を癒やしていく。
「ありがとう。」
リシアが軽く手を振る。
クラリスは周囲を見渡しながらマッピングを続けており、ときおり採取できそうな薬草を見つける。
「こちらに使えそうな薬草があります。後で採取しておきますね。」
戦闘は終始安定していた。
誰一人大きな傷を負うこともなく、危なげなく進んでいく。
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昼過ぎ。
一行は小部屋で休憩を取ることにした。
「ここなら安全だ。」
レオニスが頷く。
「少し休もう。」
全員が腰を下ろす。
エリスは慣れた手つきで回復魔法をかけ、フェリは壁にもたれながら大きく伸びをした。
「今回も楽勝だったね。」
「レオニス殿下の案内があるからね。」
ミリアが笑う。
「迷わないって、本当に大きいよね。」
ルナも頷いた。
「魔力の消耗も予想より少なく済んでいます。」
「この調子なら予定より早く踏破できそうです。」
レオニスは満足そうに皆を見渡した。
(やはりゲーム知識は有効だ。本編通りなら、この迷宮に危険はない。)
そう確信していた。
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休憩を終えると、再び探索を開始する。
レオニスは迷うことなく最短ルートを進み、隠し通路や落とし穴も次々と回避していく。
「本当に全部知ってるんだね。」
フェリが感心する。
「偶然さ。」
レオニスは笑ってごまかした。
その笑顔に、七人も自然と笑みを返す。
彼女たちにとってレオニスは、頼れるリーダーだった。
彼の判断に従えば安全に攻略できる。
その認識は、もはや疑う余地のないものとなっていた。
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迷宮を出る頃には、夕日が山々を赤く染めていた。
今回の成果は十分。魔石や素材も予定以上に集まり、全員が無事に帰還する。
「お疲れさま。」
レオニスが声を掛けると、七人は揃って微笑んだ。
「レオニス殿下のおかげで今回も安心だったわ。」
「また一緒に来ようね。」
「次はもっと奥まで行けそうです。」
そんな言葉が次々と飛び交う。その輪の中には、以前の様に他の誰かの名前が挙がることはない。アベルという存在は、彼女たちの日常からさらに遠ざかっていた。
一方その頃、学院から遠く離れた未踏の深層迷宮では、アベルを擁する「宵闇の月」が、また命を懸けた探索へ向けて静かに準備を進めていた。




