333話 夢と現実を繋ぐモノ
女教皇ファティマが見守っている中、セレスティアは意識を取り戻した。
「……無事に戻ってこられたのですね。」
目を開けたセレスティアの隣には、アベルとメアもいた。アベルも少し遅れて目を覚ます。メアは静かに立っていたが、その顔には僅かな疲労が浮かんでいる。
「はい。どうにか」
セレスティアは周囲を見回す。
そしてすぐに気付いた。
自分以外の少女たちは、まだ覚醒していない。
目を開けている者もいるが、うわの空で反応が無い様子だ。
リシア
フェリ
ルナ
ミリア
クラリス
エリス
アンジェリカ
アンジェリカの侍女の双子ソラムとソレム
そして、4人の聖女たち。
全員がその状態のままだった。
「まだ……意識が戻っていないんですね」
「ああ」
アベルが答える。
「悪夢は解除したはずなんだけど、それでも戻らない」
セレスティアは少女たちを見つめた。
全員苦しそうな表情は浮かべていない。むしろ穏やかそうな表情をしていた。それなのに、皆、意識は何処かに置き去りのままだった。
「……アベル。ちょっといい?実はちょっと気になった事があって……。」
メアが話を続ける。
「さっきのセレスティアさんの夢だけどね。実は夢の内容は全く操作してなかったの。」
「つまり、ティアが元々みてた夢があれってことか…。」
「そうだと思う。私の魔法なのに、詳しくわかってなくてごめんね。でも、自分に《ナイトメア・ウェーブ》をかけたことは、さすがに無いから…。」
セレスティアが静かに呟く。
「私の場合では、アベル様が来てくださった時にも、まだ夢が続いていました。でも、私が戻ると決めた瞬間に、夢は壊れました」
セレスティアは一人ずつ少女たちの顔を見る。
「なら……」
セレスティアは目を閉じて自分が見た夢を思い返す。
最初は悪夢だった。けれど、その最後に与えられたものは違った。失ったものがすべて戻ってきたような、何一つ苦しむ必要のない世界。そこは、あまりにも居心地がよかった。
だからこそ、セレスティアは、ある可能性に気付いた。
「……もしかして」
ゆっくりと顔を上げる。
「皆、幸せで居心地の良い夢を見ているから、戻ってこれないのではありませんか?」
アベルとファティマが目を見開く。
セレスティアは続けた。
「悪夢から解放された後、心が最も欲しいものを与えられる。苦しみも後悔もなくて、ただ幸せでいられる世界。それがあまりにも心地よいから……」
アベルが言葉を継ぐ。
「自分から目覚める理由がなくなる?」
「そうです。」
セレスティアは頷いた。
「悪夢なら、そこから逃げたいと思えます。でも、幸せな夢なら違います。そこにいたいと思ってしまう。現実へ戻る必要を感じなくなってしまうんです。
その言葉に、ファティマが静かに息を呑んだ。
「つまり、悪夢を抜けた先に用意された幸福から、自分で出られなくなっていると……なるほど。それなら今の状況に説明がつきますね。」
「であれば、新たな精神依存を心配する必要はない、というかむしろ早く今の状態から解放した方が良いってことにならないか?」
「……その通りです。」
ファティマも頷く。
セレスティアは少し考えた。そして、自分がどうやって戻ってきたのかを思い出す。
「私も、アベル様が来てくださるまでは、夢を壊そうとは思いませんでした。でも……」
セレスティアは自分の胸へ手を当てる。
「アベル様が『現実に戻りたい』と言った時、私は気付きました。どれだけ幸せでも、そこには存在しないものがあると。現実には、苦しいこともあります。でも、それだけではありません。だから私は、夢ではなく現実を選べました」
アベルは黙って聞いている。
「だったら、みんなにも同じように……」
「いえ」
セレスティアは首を横に振った。
「同じことをする必要はないかもしれません。アベル様が夢の中へ入るのはアベル様が危険ですし、メアさんの負担も大きいはず。」
アベルが少し驚いた顔をする。
「じゃあ、どうする?」
「夢の中に、現実を思い出すためのものを何か一つ入れるのは如何でしょうか?」
セレスティアは慎重に言葉を選んだ。
「幸せな夢を壊す必要はありません。むしろ、無理に壊してはいけないと思います。その人が自分で、『これは夢だ』と気付けば……。」
ファティマが頷く。
「そうですね。私もそう思います。矛盾をきっかけに、自分自身で夢だと認識させ……そして、戻るかどうか本人に選んでもらう。」
「はい。その通りです。」
セレスティアはそう答えた。
アベルはしばらく考えた。
「それなら、何を夢に入れればいいんだ?」
「アベル様の短聖剣は、如何でしょうか?」
セレスティアの意見にファティマも頷く。
「その短聖剣はアベル様のアイコンというだけでなく、聖なる武器としても存在感が大きいので、私も賛成致します。」
「じゃあ、決まりだな。あとはメア頼みになるが……メアは大丈夫か?」
メアが静かに目を閉じた。彼女は自分の中に残っている魔力の感覚を探る。
「多分、大丈夫。」
「本当に大丈夫か?」
「任せておいて。アベルのためだもん、頑張るよ!」
メアは小さく笑った。が、アベルには、どこか無理をしているように感じた。
「メア、やっぱり少し休んでからにしよう。」
「急いだ方がいいんでしょ?これぐらい大丈夫、大丈夫!」
アベルはそれならと頷いた。
「じゃあ、すまないが頼む。」
「りょーかーい!」
前話の後書きに天使の日イラストを追加しました。




