033話 帰還、そして新たな仲間
深層迷宮での探索を終えたアベルたちは、地上へと続く最後の階段をゆっくりと登っていた。
眩しい陽光が差し込む。何日ぶりだろうか。冷たく湿った迷宮の空気とは違う、草木の香りを含んだ風が頬を撫でる。
「やっぱり地上の空気はうめぇな。」
リックが大きく伸びをする。
「毎回そう言ってるな、お前は。」
トーヴが呆れたように笑った。
「毎回思うんだから仕方ねぇだろ。」
ガルドも苦笑しながら荷物を背負い直す。
「とりあえず街に戻るぞ。今日は休む。」
誰も反対しない。深層での数日間は、肉体だけでなく精神も大きく消耗する。まずは生きて帰ったことを喜ぶべきだった。
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街へ戻ると、馴染みの宿の主人が目を丸くした。
「おお、『宵闇』じゃねぇか!」
「今回も無事だったか。」
「なんとかな。」
ガルドが笑って答える。
「それと、新入りが一人増えた。」
主人の視線がアベルへ向く。
「学院の子か?」
「ああ。」
「アベルだ。よろしく。」
短い挨拶に、主人は豪快に笑った。
「ガルドたちが連れてくるなら間違いないな!」
「今日は飯を少し奮発してやる!」
リックが歓声を上げる。
「待ってました!」
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夕食の席。
木製の大きなテーブルには、焼き肉やスープ、焼きたてのパンが並ぶ。深層帰りの冒険者たちは遠慮なく食べ始めた。アベルも勧められるまま席に着く。
しばらくして腕を包帯で固定した男がやってきた。ガルドは、その男バルドをアベルに紹介した。暇をとっていた『宵闇』のメンバーだった。お互いの簡潔な紹介の後、探索の様子について共有しはじめた。
「もっと食え。」
ガルドが皿を差し出す。
「深層帰りは栄養補給も仕事だ。」
「……いただく。」
学院では一人で食事を済ませることがほとんどだった。誰かと食卓を囲むこと自体が、アベルには新鮮だった。
「そういや坊主。」
リックが肉を頬張りながら尋ねる。
「これからどうする?」
「学院に戻るのか?」
アベルは少し考えて答える。
「任務報告は必要だ。」
「だが、また探索命令が出ると思う。」
ガルドたちは顔を見合わせた。
「やっぱりか。」
トーヴがため息をつく。
「単独で?」
「ああ。」
「相変わらず無茶苦茶だな。」
ガルドは腕を組んだ。しばらく考え込み、やがて口を開く。
「だったら一つ提案がある。」
全員の視線が集まる。
「アベル。俺たち『宵闇』に正式に入らないか。」
食卓が静かになる。
リックも頷いた。
「どうせまた深層へ潜るなら、一人より五人だ。」
トーヴも続ける。
「実力は十分だ。」
「連携も覚え始めてる。」
ガルドは笑う。
「何より、お前はちゃんと仲間のために動ける。」
「それなら十分だ。」
アベルは黙って四人を見回した。
まだ出会って数日。1人は今会ったばかりだが、他の3人の仲間なら間違いないだろう。その3人とは、この数日間で命を預け合った。学院の誰よりも長く一緒にいたような、不思議な感覚があった。
「……俺は学院の学生だ。」
「それでもいい。」
ガルドは即答した。
「学生だから仲間になれないなんて決まりはねぇ。」
「学院の仕事があるなら優先しろ。」
「空いた時間だけでも一緒に潜ればいい。」
リックが笑う。
「副業みたいなもんだ。」
「お前、まだ金も欲しいだろ?」
アベルは小さく頷いた。高難度迷宮で使う装備や消耗品は、学院からの支給だけでは足りない。それは事実だった。
「それに。」
トーヴが静かに続ける。
「お前が一人で死ぬのは、見たくない。」
その一言に、アベルは少しだけ目を見開いた。自分の身を案じる言葉。それを向けられた記憶は、ほとんどなかった。
沈黙が流れる。
やがてアベルは立ち上がり、四人へ向かって軽く頭を下げた。
「……よろしく頼む。」
一瞬の静寂。
そして。
「よし!」
ガルドが豪快に笑う。
「これで正式に五人、『宵闇の月』の結成だ!」
「乾杯だ!」
木製のジョッキがぶつかり合う。
賑やかな笑い声が宿に響く。
アベルも静かにジョッキを持ち上げる。
その表情は相変わらず穏やかなままだったが、どこか肩の力が抜けていた。
こうして、学院では孤独だった一人の少年は、初めて「帰る場所」と呼べる居場所を手に入れた。
それが後に、彼の運命を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。




