表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が主人公のはずなんだけど、王子様に全部持っていかれたんですが。  作者: 踊りすがりのおっさん
第2章 勇者覚醒

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/92

032話 死地を超えて

 深層迷宮第五階層。


 探索を開始してから三日目。「宵闇の月」は補給を挟みながら、慎重に未踏破区域の調査を続けていた。この日の目的は、新たに発見された通路の先にある空間の確認だけ。


 深入りはしない。

 危険を感じたら即座に引き返す。

 それがガルドの決めた方針だった。


「今日は様子見だ。」

「欲張るなよ。」


 その一言に、誰も異を唱えない。長く生き残ってきた者ほど、「引く勇気」の価値を知っているからだ。



 新しい通路は、これまで以上に不気味だった。壁を覆う黒い鉱石は脈打つように明滅し、天井からは紫色の結晶が無数に垂れ下がっている。


「……嫌な空気だな。」


 リックが小さく呟く。

 トーヴも頷いた。


「魔力濃度が急に上がってる。」


 アベルは目を閉じる。

 魔力の流れを探る。


 何かがおかしい。

 濃い。

 濃すぎる。

 まるで、この先に巨大な魔力の渦があるようだった。


「ガルド。」

「どうした。」

「この先……魔物ではない…もっと大きな何かがいる。」


 ガルドは一瞬だけ考える。


「引くか。」


 その判断は早かった。


 だが——


 ゴゴゴゴゴ……


 足元が揺れた。


「しまっ——!」


 轟音とともに通路が崩落する。退路が土砂に埋まり、四人は広間へと押し出された。


「囲まれた!」


 リックが叫ぶ。暗闇の中で、幾つもの赤い瞳が灯る。

 一つ、二つではない。

 二十を超える魔狼の群れ。

 しかも、その中心には一回り大きな個体が静かに立っていた。


「群れの主か……!」


 ガルドの表情が険しくなる。


「最悪だ。」


 戦いは、一瞬で激化した。


 リックが前へ出る。

 トーヴの拘束魔法が二体を止める。

 ガルドが主を押さえ込む。

 だが数が多すぎた。


 一体。

 二体。

 三体。

 魔狼が次々と飛び掛かる。


「右!」


 アベルが叫ぶ。

 ガルドが半歩下がる。

 その直後、見えなかった死角から魔狼が飛び出し、空を切った。


「助かった!」


 ガルドが叫ぶ。だが今度はトーヴが包囲される。


「くっ!」


 杖を構える暇がない。魔狼が牙を向ける。

 

 アベルは迷わなかった。

 一直線に飛び込み、剣を振る。


 一体。

 二体。

 三体。

 連続で斬り伏せる。


 しかし。


「まずっ——!」


 四体目。

 死角から飛び出した魔狼の牙がアベルの肩へ迫る。


 避けられない。

 そう思った瞬間。


 ガァン!


 盾が割り込んだ。


「一人で抱え込むな!」


 ガルドだった。その横からリックの斧が振り抜かれる。


「坊主!」


 さらにトーヴの魔法が炸裂し、残る群れを吹き飛ばした。


 連携。

 誰か一人が無理をすれば、必ず誰かが支える。

 それが「宵闇の月」だった。



 十分後。


 最後の魔狼が霧となって消える。


 全員が荒い息をついていた。

 鎧は傷だらけ。

 盾には牙の跡。

 トーヴの腕からは血が流れている。


「……生きてるな。」


 ガルドが笑う。


「奇跡だ。」


 リックが地面に座り込む。

 トーヴも苦笑した。


「全員無事なら上出来だ。」


 アベルは黙って回復薬を差し出した。


「使ってくれ。」


 トーヴは受け取りながら笑う。


「ありがとな。」


「遠慮しなくなったじゃねえか。」


 リックがからかう。


「最初は『了解した』しか言わなかったのにな。」


 ガルドも笑う。


「少しは人間らしくなった。」


 アベルは困ったように小さく首を傾げた。


「……そうだろうか。」

「そうだ。」


 ガルドは力強く答える。


「最初は一人で全部背負おうとしてた。」

「でも今日は違った。」

「助けを受け入れた。」

「それだけで十分だ。」


 アベルは静かに四人を見る。


 学院では誰も、自分を助けようとはしなかった。

 助ける必要がないと思われていた。

 いや、助けることすら許されていなかった。


 だがここでは違う。

 危険なら助ける。

 無理なら支える。

 誰一人、それを特別なこととは思っていない。


「……ありがとう。」


 その言葉に、一瞬だけ全員が目を丸くした。

 そして…


「おう。」

「気にすんな。」

「仲間なんだからよ。」


 ガルドが笑いながらアベルの肩を叩く。その力は痛いほど強かったが、不思議と嫌ではなかった。


 深層迷宮という死地の中で。


 アベルは初めて、自分が「誰かの仲間」であることを実感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ