287話 光を受け継ぐ者*
イヤマ王国の廃城
戦況は次第に厳しくなっていた。
闇精霊には、通常の物理攻撃や魔法攻撃がほとんど通じない。
フェリの風魔法も、
クラリスの魔導弾も、
ミリアの魔導具も、
ルナとセレスティアの魔法でさえも、
闇の身体へ触れた瞬間、吸い込まれるように消えていく。
「魔法が効かない……?」
ルナが驚きを隠せない。
「魔力に逆変換して吸収しています。」
ミリアが鑑定して答えた。
「吸収した魔力で強化されています。」
クラリスの鑑定が警鐘を鳴らす。
その言葉に、全員の表情がさらに険しくなる。
ならば、どうすればいいか。
それを考えている間にも、闇精霊は少しずつ光の精霊へ近付いていた。光の精霊は結界を展開し、闇を押し返している。しかし、光の精霊はすでに力を使い果たしかけていた。
「……精霊様!」
リシアが叫ぶ。
『大丈夫です』
そう答えた声には、わずかな震えがあった。誰がみても明らかに大丈夫ではなかった。それに光の精霊の輝きが、少しずつ弱くなっている。
「俺が行く」
アベルが立ち上がる。リシアも続こうとした。
「私も!」
「リシアは精霊様を頼む。」
「アベル一人では行かせないよ。」
フェリがリシアの代わりにアベルとツーマンセルを組んで突っ込んでいく。
「《レーザー・ソード》」
アベルはまだ試していなかった魔法剣を短聖剣にエンチャントして闇精霊に斬りかかる。
ザシュッ!
魔法剣であれば闇精霊にも刀身を当てることが可能なようだ。ただ、長く刃を当てていると魔力を吸われていく感じがした。
闇精霊が二人へ向けて黒い腕を伸ばす。走りながらそれをかわして、さらに切り込んでいく。二人は何度も闇精霊へ挑むが、少しずつ押し込まれていく。闇精霊の力は、それほどまでに圧倒的だった。
一方、リシアは小さく頷く。
「私に力があれば……。」
やがて、光の精霊の結界に大きな亀裂が走った。
『……もう、保ちませんか。』
光の精霊が呟く。
「精霊様!」
リシアが振り返る。その瞬間、闇精霊の巨大な奔流が、光の精霊へ向かって放たれた。光の精霊がそれを受け止めるが、身体から光が激しく散っていく。
「くっ……!」
その姿を見たリシアの顔が変わった。
「やめろ!」
闇の力の奔流に刀で立ち向かうリシアだが、殆どが素通りして光の精霊に向かってしまう。
しかし、そんなリシアの献身を光の精霊は見逃さなかった。光の精霊は静かに微笑む。
『わかりました。では、貴方に委ねましょう。』
その声は、どこか嬉しそうだった。
「え?」
次の瞬間、光の精霊の身体が眩く輝きリシアの中に流れ込んでいった。
「リシア!」
アベルが叫ぶ。しかし止める間もない。
無数の光の粒がリシアの身体へ吸い込まれていく。
「うっ……!」
リシアが膝をつく。身体を包んでいた光が、徐々に彼女の中へ消えていく。リシアの髪と眼が金色に輝き、雰囲気までもが、いつもと大きく変わっている
「まさか……神がかり?」
エリスがリシアに何が起きているかを正確に言い当てていた。
リシアの身体から、淡い光が溢れた。
その光を見た闇精霊が、初めて後退する。
「……リシア?」
アベルが駆け寄る。
そしてリシアはゆっくりと顔を上げた。
『……勇者よ。其方の力、少し借りるぞ。』
リシアの口から発せられたのは光の精霊の声だった。そして、光を纏ったリシアは、そのままアベルに抱きつき唇を奪う。リシアの突然の行動に固まるアベル。
思いのほか濃厚にアベルのソレをリシアの口と舌が蹂躙し、唇が離れたときには、アベルとリシアの口からは勇者の白銀の魔力の残滓が溢れた。
『うむ。中々のものだ。これならば…。』
リシア、いやリシアの身体に入った光の精霊が刀を構える。そして、アベルよりも高出力な魔法剣を刀に宿した。その刃には、白銀の光が宿っていた。
<よくわかる解説>
今回もアベルは咄嗟に防壁を展開しましたが、目的が魔法の行使ではなく魔力の吸収だったため、勇者の力で展開した防壁ごと精霊に美味しくいただかれちゃいました。




