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250話 崩れない連携

クラリスの悲鳴が王城内に響き渡る。


 その声は城にいる誰の耳にも届いた。敵味方を問わず、一瞬動きが止まるほどの凄絶な叫びだった。


 アベルは距離を取りながら、視線だけはクラリスから外さなかった。


 砕けた指輪。苦しみながら崩れ落ちるクラリス。

 そして、その後の様子はフェリと同じだった。

 狂ったように暴れ回ったあと、急速に力を失い、その場へ膝をつく。もう魔導銃を構えることもない。

 焦点の合わない瞳のまま、石畳へ座り込んでいる。


 戦う意思も、戦況を理解する様子もない。

 ただ茫然と虚空を見つめていた。

 アベルは静かに息を吐く。


(間違いない。あの指輪だ。)


 ようやく掴んだ突破口だが、フェリとクラリスの取り乱した姿を見て、皆の指輪を同じように破壊して大丈夫かと心配になる。だが、それを考える時間は与えられなかった。


「陣形変更。」


 セレスティアの声が響く。

 落ち着いた声音で、クラリスが戦闘不能となっても、その声色は少しも乱れない。


「リシア、前衛維持。」

「ルナ、攻撃優先。」

「ミリア、解析優先。」

「エリス、後衛維持。」


 短い命令だけで陣形が組み替えられる。クラリスが抜けた穴へ無理に誰かを入れるのではなく、残る四人だけで戦線を再構築する。その判断の速さに、アベルは思わず舌を巻いた。


(2人が抜けても、一瞬で立て直すって…。)


 指揮能力だけなら、やはり別格だった。


 リシアが刀を構え直す。だが、先ほどまでよりも慎重だった。不用意に踏み込もうとはしない。アベルが左手を狙ってくることを理解し、刀を正面へ構え、左手を柄頭の後ろへ隠すような構えへ変えている。


(簡単には狙わせないか。)


 そこへルナの魔法陣が展開された。ミリアが戦況分析にリソースを回した分と、クラリスが抜けた分、リシアの攻撃をサポートする牽制役として、ルナが攻撃に本格的に参加する。その結果がアベルの周囲だけを囲むように展開され幾重も重なった魔法陣だ。


 全ての魔方陣から高出力レーザーのような光が発射され、同時に魔力で出来た鎖までもがアベルに襲いかかる。


 アベルは短聖剣に勇者の力を宿した。その刀身が白銀の光を放ち、レーザーと魔力で出来た鎖を……切った。そして、横薙ぎにそれらを発している魔方陣も一刀両断する。消滅する魔方陣。


(試しにやってみたけど、出来るもんだなぁ。)


 やったアベル自身が驚いていた。だが、魔力で描いた実体のない魔方陣を、物理的に切るという非常識への驚愕はルナに大きな隙をもたらした。


「ルナ!左手!!!」


 ミリアの魔眼が赤く光り、アベルの次の行動を正確に予想していた。はっ、としたルナは直ぐに左手を庇うような立ち回りをした。


 アベルは苦笑した。


(読まれたか。)


 ならば、真正面からでは届くまいと、アベルは深く腰を落とし、呼吸を整え勇者の力を静かに全身へ巡らせる。

 まだ完全ではないが、先ほどまでよりも身体が軽い。戦いの中でアベルは少しずつかつての感覚を取り戻していた。


 その変化を、ミリアの魔眼も捉えていた。


「身体能力上昇。勇者因子が活性化しています。」


 セレスティアは小さく目を細めた。勇者という存在、それを敵に回した時の、その厄介さは想像以上だった。


(長引かせるほど不利ね。)


 そう判断したセレスティアは、自身もこの戦いに指揮だけではなく直接参加する事を決める。


 アベルは短聖剣をゆっくりと構えた。

 戦いはむしろここからが本番だった。

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