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242話 密集方陣*

 アルセリア王城内。


 国王の居室へ続く長い廊下は、すでに戦場となっていた。奥の重厚な扉の向こうには、アルセリア王がいる。


 その前に立ちはだかるのは勇者アベル。短聖剣を握り、王の居室へ続く道を一人で塞いでいる。


 対するのは、セレスティア率いる魔王軍侵入部隊。魔族兵はリザードマンの精鋭21名。その後方にはセレスティアと6人のヒロインが控えていた。


       ◇


 セレスティアは静かに告げた。


「前衛は7人が横に並んで3列に。盾で攻撃を防ぎながら足並みを揃えて前進。」


 それは、いわゆる密集方陣(ファランクス)戦術だった。通路の横幅一杯に盾を持った兵士を隙間なく並べて攻撃を回避しつつ確実に前進する。上からの攻撃は2列目、3列目が応戦し、飛んで裏に回り込もうものならヒロイン達との戦闘になり魔族兵は王の居室に辿りついてしまうだろう。


「《レーザー・ソード》」


 アベルは魔法剣を発動して横薙ぎに魔力の伴った斬撃を放った。しかし、そのアダマンタイト製の盾に少し傷がついただけで、魔族兵の歩みを止めることは出来なかった。


「《アイス・ランス》」


 頭上から氷の刃を降らせてみるアベル。しかし、2列目の魔族兵が1列目の頭上を、3列目が2列目の頭上をそれぞれ盾で護りきった。


「《エリア・ヒール》」


 3列目の魔族兵数名に被弾者が出たが、それをエリスが直ぐに回復する。


「《ストーン・ウォール》」


 アベルは最前列の前に巨大な石壁を作り足止めを試みたが……。


「《ディスペル・マジック》」


 後方からルナの解除魔法が飛んで来て、石壁は一瞬できえさった。再びアベルは最前列の魔族兵の盾を削るしか手が無くなった。


「左前方に未知の罠があります。」


 ミリアの鑑定による罠検知が発動した。


「クラリス」

「はい。」


 フェリのアシストを受けて魔族兵の頭を越えるほど高くジャンプしたクラリスの魔道銃が罠の位置に正確に魔弾を打ち込んだ。それで生じる小さな爆発。


「……クリア。」


 ミリアが進行方向に障害が無くなったことを確認した。


「そのまま前進。」


 セレスティアの指示に魔族兵が頷く。魔王軍の脅威は少しずつ王の居室、そこに保管されたある物へと近づいていた。


     ◇


 その様子を少し離れた柱の影から見ていたリリア王女とその護衛の女騎士。


挿絵(By みてみん)


「――っ!」


 アベルは最前列の魔族兵が盾の隙間から突いてくる槍を捌きながら、どう対応すべきか考えていた。


「《スラッシュ》」

 短聖剣が閃く。


 アベルの強力な斬撃が、並んだ盾の中央に一瞬できた隙間に叩き込まれた。それにより最前列の魔族兵が重傷を負う。


「よし、今だ!」

「させません。カバー!」


 倒れた魔族兵の開いた隙間に飛び込もうとするアベル。しかし、その隙間は2列目の兵士が前に出ることで一瞬で埋まってしまった。負傷した魔族兵はそのまま後ろで待機していたエリスに回復してもらい、3列目に復帰する。


「正面から勇者を相手にする必要はありません。向こう側に辿り着ければ、我々の勝利です。確実に歩を進めなさい。」


 一歩ずつ確実に歩みを進める魔族兵の隊列に、アベルは未だかつてない苦戦を強いられていた。

      ◇


 その様子を少し離れた柱の影から見守る少女がいた。セレスティアの別腹の妹、リリア第二王女だ。護衛である女騎士サーシャに周囲の警戒をさせてアベルと姉セレスティアの戦いを見守っていたのだ。


 しかし、勇者は不利な状況に置かれていた。通路の幅いっぱいに隊列を組んだ魔族兵がアベルを追い詰めている。その状況をみて、リリアには一つのアイデアが浮かんだ。


「ねえ、サーシャ。今の状況って前に貴女に教わったアレが使えないかしら?」

「アレ、でございますか…? はっ!? いけません。姫様の御先祖様になんと申し開きをしたら!それに姫様にも危険が及びます。」

「今はそんな事、言ってる場合じゃないです。……決めました。私、やります!」


 覚悟を決めた表情でサーシャを見つめるリリア。


「姫様……わかりました。姫様は私が必ずお守りいたします。」


 サーシャも覚悟を決めた。


      ◇


 アベルは何の打ち手もないまま、ジリジリと後退させられていく。このままでは不味いと思っていた時、後ろから誰かの声が響いた。


「アベル殿、下がってください。」


 一瞬だけ振り返ると、先ほど逃したはずのリリアの護衛騎士サーシャが後ろで叫んでいた。アベルは指示通り後ろに飛んで退がる。


「姫様、今です!」

「《ピット・フォール》!」


 戦場にリリアの声が響いた。リリアも幼いとはいえ王族としては普通以上の魔力量を誇っていた。その魔力が魔族兵のいる床に注がれる。


「えっ、まさか?全員退避!下がって!」


 慌ててセレスティアが前線に後退の指示を出す。しかし、隊列を組んでいた魔族兵が急に進行方向を変更できる訳もなく、床に現れた巨大な土魔法の魔法陣の中に取り込まれる。そして、次の瞬間、魔族兵の立っていた床が…消えた。


「うわっ!」

「床が!」

 「「「「うわぁああぁっ……」」」」


 魔族兵が次々と階下へ落ちていく。密集していた魔族兵たちは互いに支えることもできず、そのまま暗い階下へ吸い込まれていった。


      ◇


 少し前、王女リリアは侍女で教師役のエリナから、土魔法なら護衛騎士のサーシャが得意だと聞いて、リリアはサーシャに土魔法の使い方を聞いたのだ。


「土魔法って、何に使うの?」

「一番良く使うのは穴掘りでしょうか?」

「穴掘り?」

「はい。例えば、自分の足元を掘って敵からの攻撃から隠れる塹壕にしたり、敵を落とし穴に落としたりとかですね。あとは、土壁を作ったり、岩礫を敵に発射したりとかもできますが、姫様の場合は水系統の属性もお持ちなので、壁や攻撃には氷魔法の方が強力でしょう。」


 その後、リリアはいろんな所に穴を開けまくって、母である王妃に、こっ酷く叱られた。


 そして今、魔族兵のいる長廊下の真下は、先日その存在を初めて知った地下の王族の霊廟にまで続いている巨大空間だった。だから、このフロアーの床さえ消せば、魔族兵は50m以上はある深さの底にある王家の霊廟にまで魔族を落とすことができる。そう考えたリリアは迷わず行動にでた。国を守るためだから、きっと御先祖様も許してくれるはずと信じて。


      ◇


 アベルとサーシャの目の前で転落していく魔族兵達。ヒロイン達は魔法陣の範囲外だったため無事だったが、セレスティアは苦々しい顔をしている。


(やってくれたわね……リリア!)


 王族の霊廟の位置は、もともと王しか知らず、先日の吸血鬼事件で王妃やリリアも知ることになったが、セレスティアは当然、詳しい位置までは知らなかったのだ。


 サーシャはアベルに一礼すると、直ぐにまたリリアの元へと戻った。


「《アイス・ウォール》」


 大きな穴で分断された通路をルナが氷魔法で塞ぐ。そして、ヒロイン達は警戒しながら、ゆっくりと前に進み出す。


「《アイス・ウォール》」


 それを見たアベルは直ぐに自分の背後に分厚い氷の壁を作った。勇者の力を纏わせて作ったその壁は、アベルが維持し続ける限り無くならない。


「《ファイヤー・ジャベリン》」


 試しにルナが強力な炎の槍をいくつも打ち込んでみるが、アベルの背の氷の壁はビクともしない。多少の傷がついても直ぐに修復してしまう。


 これによりアベルは大量の魔力を消費し続けることになるが、セレスティア達にアベルを倒す以外の選択肢を無くすことが出来た。


「ちっ…。」


 誰かが小さく舌打ちした。アベルは短聖剣を握り直しながら七人を見る。皆、静かにアベルを見つめている。


 戦場だったそこは、今や静まり返っていた。

 王の居室へ続く通路。

 そこに立っているのは八人だけ。

 アベルは静かに息を吐いた。


「……残ったのは俺たちだけだな。」


 七人は答えない。

 ただ、それぞれが武器と魔法を構え直す。


 本来ならば仲間だった者たちとの戦いが、今、本当の意味で始まろうとしていた。

雑魚敵(?)を倒したのはリリアの機転でした。

彼女も姉に一矢報いることが出来ましたね。


閑話34話に侍女エリナのイメージを追加しました。

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