241話 呪われた装備*
遅くなりましたが、ヒロイン達の装備説明回です。
アルセリア王城。
かつて穏やかな日常が流れていた城下の街は、今や魔王軍の旗が掲げられ、黒い魔力の霧に覆われていた。
城壁は一部が崩れ、街路には戦闘の痕跡が残っている。それでも、まだ完全には陥落していない。王都を守ろうとする兵士達が残り、必死に抵抗を続けていた。
その王の居室に続く通路に一人の青年が立って
そして、目の前にいるのは……
(……セレスティアさん)
魔王軍の先頭、黒い旗の下に立つ一人の女性。この国の王女で、そして学院では特別クラスの中心にいた少女。その姿を見た瞬間、アベルの胸の奥に複雑な感情が湧き上がる。
なぜ?
どうして?
何があった?
問いは数え切れないほど浮かぶ。
しかし、セレスティアはアベルを見るだけだった。
そこには驚きも戸惑いもない。まるで、戦場に存在する一つの戦力を分析しているだけのような視線。そして、その横には六人の少女達が立っていた。共に戦ったこともある学院の同級生。しかし、今の彼女達もまた魔王軍の兵士であり、その出立ちはアベルの知る姿とは少し違っている。
リシアは半身に黒銀の軽装鎧を身につけている。騎士が着るような重厚な鎧ではないが身体の動きを一切阻害しない、剣士向けの装備。しかし、その禍々しさからは、サムライというよりも野武士という雰囲気に近い。
フェリは漆黒の胸当て。彼女の俊敏な動きを活かすためか、余計な装飾はほとんどない。手には二本の双剣。以前から使っていた武器と形状が似ているが、刃から感じる魔力の密度と凶々しい雰囲気が明らかに違っていた。
ルナは半透明な黒い魔導ローブを纏っている。薄く見えるが、その存在感は尋常ではない。それを纏った彼女は、まるでグリム・リーパーのように死の気配を周囲に撒き散らし、耐性のない者なら見ただけで気絶しかねない威圧感を放っている。
ミリアは、ただ1点をのぞいて装備に大きな変化はない。普段身につけている眼鏡がなく、代わりに人間のものとは思えないほど、深淵のように黒い虹彩と鮮血のような紅い瞳がアベルを捉えていた。
クラリスは普段身につけていない、黒く凶悪な感じの魔導軽鎧を装備している。手には魔導銃。だが、彼女が普段使用しているものよりも口径が大きく、禍々しい雰囲気を醸していた。
エリス。彼女が身につけているものを見てアベルは言葉を失った。聖職者としての面影を残しながらも、邪神を信仰する邪神官のような禍々しい黒い聖衣を身に纏っていた。
そして、セレスティアは漆黒のオフショルダーのドレスを身に纏っている。アベルが知る彼女の清楚な印象は完全に霧散し、今は妖艶さすら感じるその黒いドレスは、よく見れば唯のドレスではない。魔法陣がそこかしこに刺繍されていて、その魔法陣それぞれが特殊な効果を持っていることは容易に想像できる。
これらは全て魔族側が用意した装備だった。どれもが強い力持つ反面、その代償も大きい。その代償とは装着者に持続的にもたらされる激しい痛みで、まともなヒト族であれば1分も身につけていられないほどのものだ。しかし、今の彼女達は自らが傷つくことを厭わない。その痛みこそが、ヒト族である自分が背負うべき咎だと感じて気にしない。だからこそ装備できる代物だった。
◇
アベルは静かに息を吐いた。アベルの脳裏に、神杖の塔での戦いが浮かぶ。ぞこでアベルはメイが作り出した幻の彼女達と一度戦った。しかし、あの時の彼女達は、アベルの記憶から作られたものだった。故に彼女達の能力も、戦い方も、アベルが知っている範囲のものだった。
しかし、目の前にいる彼女達は違う。知らない構え。知らない装備。知らない呪文の詠唱。それらが彼女達を時間を重ね、経験を積み、成長した本物だと感じさせる。それはすなわち、彼女達は自身の力を保ったまま、強力な装備を身につけた上で、自らの意思で魔王軍の兵士になっていることを意味していた。さらに、そこには優秀な指揮官たるセレスティアがいる。今は彼女がヒロイン六人と他の魔族兵達を率いていた。
アベルは短聖剣を握り直した。
なぜ、彼女達が魔王軍にいるのか。
なぜ、自分へ強い敵意を向けているのか。
その理由は何一つ分かっていない。先のセレスティアの反応を見る限り、誰に質問しても納得できる答えが貰えるとは思えない。それに迷っている時間はなかった。戦場で敵として向かってくるなら、まず止めるのが先だ。
セレスティアが静かに口を開く。
「第一陣、整列。盾を前方に。」
その指示で魔族兵が縦横に隊列を組んで動き出した。セレスティアと6人のヒロイン達を置き去りにして魔族兵がアベルの後ろにある王の居室を目指して一斉に動き出す。最初はデュラハン将軍の命令で渋々セレスティアに従っていた魔族兵達も、セレスティアの指揮官としての有能さを理解して反発をみせなくなっていた。
先頭の魔族兵達は盾を隙間なく並べて通路を端から端まで隙間なく埋めた。そして隊列を維持したまま前進する。この面での動きによりアベルは向かってくる全ての魔族兵の進行を妨害しなければならなくなった。この先のアルセリア王の居室に魔族兵を行かせるわけにはいかない。アベルは魔族兵を倒すよりも前に行かさないための戦いを強いられることになった。
「隊列を維持して前進。負傷者は後方へ。各隊、配置を崩さないで。」
指示は短いが的確で、次第にアベルは後ろに下がらざるを得なくなっていく。アベルはそこで改めて理解した。
セレスティアが、この戦場を支配している。
彼女自身は最前線で戦うのではなく、仲間の能力を理解し、最も効果的な場所へ配置し、最大限に引き出す。それが彼女の強さなのだ。
迫る魔族兵にアベルは短聖剣を向けた。
「……行く」
白銀の光が刃へ宿る。
かつて共に戦った少女達と魔族兵の魔王軍。そして、それを率いるセレスティア。
ここに勇者アベルと黒き装備を纏った七人の少女達の戦いの火蓋が切って落とされた。
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