239話 届いた凶報*
街道砦都市の復旧は、まだ完全には終わっていなかった。
崩れた防御壁。
破損した城門。
魔王軍との戦闘によって刻まれた傷跡は、街の至る所に残っている。
それでも人々は前を向いていた。負傷者を助け、瓦礫を片付け、失われた日常を取り戻そうとしていた。
◇
そして街の外、魔界へと向かう街道の入口には5人の冒険者が出発の準備を整えていた。
アベルと宵闇の月のメンバーがそこにいた。
◇
「準備は終わったか。」
ガルドが確認する。
「問題ない。」
「いつでも行けるぜ。」
リックとトーヴが答える。
「必要な物資は揃えてある。」
最後にバルドが荷物を担ぎながら答えた。
◇
アベルも自分の装備を確認する。
短聖剣と最低限の旅道具。
そして、まだ完全には戻っていない身体。
勇者の力は戻りつつあるが、以前のような絶対的な力には、まだ届いていない。
それでも早く出発しなければという気持ちは抑えられなかった。
魔王討伐隊が魔王城へ向かった後の足取りは、アベルには分からない。だが、分かっていることもある。
マユミとメアは生きている。従魔契約によって、彼女達が生命の危機に陥った場合には、この契約が命を繋ぎ止めるはずだ。この左手の紋章に変化がない限りは命心配はない。だが、レオニスの管理下に置かれている以上、自分のいないところで、どのような扱いを受けているか……アベルには嫌な予感しかなかった。
「急ごう。」
アベルが言う。
(早く二人の無事を確認したい。)
ガルドは静かに頷いた。
◇
マユミとメアは、もうただの仲間なんかじゃない。命を預け合った相手であり、共に生きると約束した存在だ。だから、助けに行く。絶対に!
しかし、その時だった。
「待ってください!」
街の入口から、兵士が駆けてきた。
「勇者殿!」
アベルが振り返る。
「何かありましたか。」
兵士は息を整えながら報告する。
「緊急報告です。魔王軍が……アルセリア王国へ侵攻を開始しました。」
一瞬、空気が止まった。
「アルセリア……。」
アベルが呟く。その名を聞いた瞬間、脳裏に浮かんだ顔があった。
アルセリア国王と王妃は、自分を勇者として認めてくれた人たちだ。リリア王女は…学院祭の後にミスリルゴーレムの素材を届けた際に、事件へ巻き込まれた彼女を助けた。あの時の笑顔が一瞬だけ脳裏をよぎる。
「規模は?」
ガルドが尋ねる。
「大規模です。魔王軍の主力が動いているとのことです。」
兵士はさらに続ける。
「それと……。」
言葉を濁す。
「確認できていない情報ですが。魔王軍を率いている中心人物について、奇妙な噂があります。」
アベルは黙って聞く。
「アルセリアの第一王女、セレスティア殿下が、魔王軍の先頭に立っていると。また、学院の他の生徒も彼女に付き従って、魔王軍に組みしていると。」
その瞬間、アベルの表情が変わった。
「……そんなはずは。」
自然と否定の言葉が漏れる。
セレスティア王女……彼女には複雑な事情があると今では知っているが、少なくとも自分の国を敵に回す側に立つような人間ではない。少なくとも、アベルはそう信じていた。
(何か事情があるのか……。)
胸の奥に不安が広がる。
それにマユミとメアはもともとは魔族側だった。だとすれば、セレスティアと行動を共にしている学院の生徒に含まれている可能性も高い。
「皆さん、俺はアルセリアへ向かいます。」
アベルは即座に決断した。
ガルドが頷く。
「もちろん、俺たちも行くぜ!なあ!」
「「「おうよ!」」」
宵闇の月のメンバーも同意して、準備を整える。
◇
砦街を救ったばかりの勇者は休む間もなく、次の戦場へ向かうことになった。
向かう先はセレスティアの故郷、
アルセリア王国。
そして、そこで待つものがアベルの想像を遥かに超える事態であることを、まだ誰も知らなかった。




