237話 再び輝く勇者の剣
夜明けの光が、街道砦都市の城壁を照らし始めていた。しかし、戦闘は継続中。魔王軍本隊は未だ健在。
傷ついた城壁と疲弊した兵士。そして、限界に近づいていた防衛線。誰もが、この戦いが最後の局面へ向かっていることを理解していた。
◇
城壁前。
魔王軍指揮官がゆっくりと前へ出る。その姿は、これまでの魔族兵とは明らかに違っていた。
高位魔族とは長い年月を生き、多くの戦場を経験した存在だ。
「まだ抗うか。」
魔族は城壁を見る。
「ヒト族にしてはよく耐えた。」
その視線がアベルへ向く。
「特にお前だ。だが、勇者の力を持ちながら、その程度とはな。」
アベルは答えず、ただ短聖剣を構える。
魔族は笑う。
「先ほどまでの戦いで理解した。お前の力は衰えている。身体も限界なのだろう。」
その通りだった。だが、アベルの表情は変わらない。
少し前なら、力が足りないことに焦っていただろう。
とても魔王に届くはずがないと。しかし、今は違う。
勇者の力とは、最初から完成された強さではない。
誰かを守るために、何度でも立ち上がる力。
「《レーザー・ソード》……来い。」
アベルが挑発気味に告げた。
魔族の表情が歪む。
「面白い。」
次の瞬間、巨大な魔力が爆発した。
魔族の腕から黒い刃が伸びる。ヒト族の剣とは違い魔力そのものを刃に変えた武器。
一撃目。
アベルは受け流す。
二撃目。
身体を捻って避ける。
三撃目。
短聖剣で受け止める。
衝撃で地面が砕ける。
「まだその程度か。」
魔族が笑う。だが、アベルは冷静だった。
以前のように、力で押し切ろうとはしない。
相手の動き。
魔力の流れ。
攻撃の癖。
全てを見る。
「そこだ。」
一歩。最短距離へ踏み込む。
短聖剣が閃き、魔族の腕に浅い傷が走った。
「……?」
魔族が初めて驚いた表情を見せる。
「ほう。力がないから、技術か。」
アベルは答えない。
勇者の力は戻ったが、それは以前のような圧倒的な力任せのものではないのだ。
経験。
技術。
仲間との繋がり。
それら全てを含んだ、本来の勇者の力だった。
◇
「勇者殿!」
城壁上から声が響く。
「敵右翼が突破を狙っています!」
アベルは一瞬だけ視線を向ける。
魔族は笑った。
「余所見か。戦場では命取りだ。」
黒い刃が迫る。
しかし、アベルの前にガルドが立った。
「一人で全部背負うな。」
アベルは目を見開く。
「俺達がいる。」
宵闇の月の仲間達が並ぶ。
以前のアベルなら全てを自分一人で解決しようとしていただろう。だが、今は違う。
「……そうですね。」
アベルは小さく笑った。
「お願いします。」
それは誰かを頼るという、アベルにとって大きな変化だった。
◇
宵闇の月が連携して動き魔族の動きを封じる。
その隙にアベルは前へ出た。
「これで終わりです。」
白銀の光が短聖剣を包む。
魔族が目を見開く。
「その力……。」
アベルが剣を振り抜くと、白銀の斬撃が戦場を駆け抜けた。その斬撃は、黒き魔力を切り裂き、魔族の防御を貫く。
魔族は膝をついた。
「……これが勇者か。」
その言葉を最後に高位魔族は崩れ落ちた。
◇
一瞬、戦場が静まる。
そして。
「敵指揮官、撃破!」
兵士の叫びが響いた。そして、それに呼応するかのように魔王軍の動きが乱れ始める。
◇
砦街防衛線。
戦闘はようやく終結に向かうことになる。




