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236話 勇者の力の本質

 魔王軍本隊との戦いは、夜が明けても続いていた。


 砦街の城壁には無数の傷が刻まれ、魔導砲の砲身は熱を持ち、兵士達の疲労も限界へ近づいていた。


 それでも、砦はまだ落ちていなかった。


     ◇


 城壁前。


 アベルは迫り来る魔族兵を相手に剣を振るっていた。


 一撃。

 二撃。

 敵を倒す。


 だが、以前のような圧倒的な速度ではない。


 身体の重さや魔力の巡りの悪さが、勇者の力が戻っていないことを、アベル自身に理解させていた。


     ◇


「勇者殿!」


 兵士の叫び。

 大型魔獣が城壁へ向かって突進してくる。

 アベルはすぐに動いた。短聖剣を構え白銀の光を集める。しかし、剣に宿る光は弱い。魔獣を倒すには十分だが、前はもっと簡単に終わらせていた。


     ◇


「……足りない。」


 アベルは小さく呟いた。

 力が足りない。

 魔王と戦うには、

 マユミとメアを救うには、

 この街を救うには、

 今のままでは届かない。


「勇者殿!ここをお願いします。」


 後方から声が響く。振り返ると、砦の兵士が一人、負傷した仲間を抱えていた。


「自分は彼を医療区画まで運びます!」


 兵士は必死だった。だが、足元は震えている。恐怖を抱えてはいるが、仲間を助けるために動いていた。


     ◇


 その姿を見て、アベルはふと気づいた。

 自分は何を求めているのか。


 強大な力。

 圧倒的な魔力。

 誰にも負けない力。


 それだけを求めていたのではないか。


 メアを救った時…

 そして、マユミを救った時…

 自分は何を考えていた。


 強くなりたいからではなかった。

 勝ちたいからでもなかった。


 ただ、失いたくなかった。


 目の前にいる人を。

 大切だと思った存在を。


     ◇


 勇者の力。


 それは魔王を倒すためだけの力ではない。

 誰かを守りたいという意思。

 そのために立ち上がる心。


 アベルはゆっくりと自分の胸へ手を当てる。


     ◇


 学院祭の時。

 限界を超えてマユミと契約した際、

 自分は力を失ったのではない。


 違う。


 力の向かう先を間違えていた。


 初めて勇者の力に目覚めた時のことを思い出せ!

 あの時は、この世界で最初にできた仲間、ガルド達を守るために発動した。だから…


 勇者の力は…命を削って無理やり引き出すものではない。守りたいという想いに応えて、自然に湧き上がるものだ。


     ◇


 アベルは目を閉じる。


 そして、ゆっくり息を吐いた。


「……そういうことか。」


 白銀の光が………再び宿る。


 今までとは違う。

 無理やり燃やした力ではない、

 静かで確かな光。

 そして、その光の中には、微かにだが、かつての淡い黄金色の光も含まれていた。


     ◇


「アベル。」


 ガルドが驚いたように見る。


「もしかして…戻ったのか?」


 アベルは自分の手を見る。


「完全ではないですが……でも、」


 剣を握る。


「戦える力はあります。」


 その瞬間、城壁の向こうから巨大な魔力反応が発生した。


「敵指揮官が動きます!」


 兵士が叫ぶ。魔王軍の高位魔族が前へ出た。


「まだ立つか、人間。」


 アベルは静かに歩み出る。


「まだ終わっていないなら…守るべきものがあるなら…」


 勇者の力は失われたのではなかった。

 

 ただ、もう一度、アベル自身がその意味を理解する必要があっただけだった。

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