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235話 砦の守護者達

 魔王軍の指揮官が放った魔法は、夜空を覆うほど巨大な魔力の塊となって砦都市へ迫っていた。


 その威力は、城壁の一部を破壊するだけでは済まないだろう。内部の住民区画や医療区画、そして避難している人々の全てを巻き込む可能性まである攻撃だった。


     ◇


 城壁上。


 兵士達の間に緊張が走る。


「防御魔法展開、急げ!」


 宵闇の月の牽制でギリギリ間に合った砦の防御魔法強化。だが、攻撃魔法は対消滅することなく、じわじわと防御魔法の膜を押し潰そうとしている。防衛設備は起動しているが旧式のため、魔王軍の高位魔族が放つ魔法を完全に防ぐには、出力が足らなかった。

    

「勇者殿!」


 司令官が叫ぶ。アベルは頷いた。


「分かっています。」


 アベルは外壁から前へ出る。しかし、無理に一人で受け止めるつもりはなかった。


「ガルドさん。お願いします。」


 宵闇の月のメンバーが頷く。


「任せろ。」


 ガルドが魔力を展開し、阿吽の呼吸で仲間達も同時に動く。


 防御魔法、衝撃緩和、魔力干渉。

 それぞれが役割を分担する。

 アベルは最後に前へ出て、短聖剣を構えた。


 以前なら、勇者の力を最大限に引き出せば。この程度の魔法なら正面から斬り裂けたかもしれない。


 だが、今は違う。


 白銀の光が刃へ集まるが明らかに弱い。しかも、不安定だ。それでも、アベルは剣を振るった。


 魔法と刃が衝突する。それにより轟音と衝撃波が生じ、その光が夜空を照らす。


「ぐっ……!」


 アベルの身体が押し戻され、足元の石畳が砕ける。しかし、背後には街があるので避けることはできない。


 しかし、そこにガルド達の補助魔法が重なる。


「今だ!」


 アベルは力を込めると一瞬だけだが、白銀の光が強まった。そして、魔法の中心へ向けて、短聖剣を振り抜く。すると黄金色に輝く斬撃が放たれ、巨大な魔力の塊を中央から真っ二つに切り裂いた。轟音とともに、魔法は左右に分かれて空へ消えていった。


     ◇


 城壁上から歓声が上がる。


「防いだ……!」

「勇者殿が止めたぞ!」


 しかし、アベルはその場で膝をついていた。


「アベル!」


 直ぐにガルドが駆け寄った。


「大丈夫です。」と答えようとするも、呼吸が乱れて声にならない。勇者の力は確実に消耗していた。


(やっぱり……以前とは違うな。)


 その時、城壁の上から砦司令官の声が響く。


「敵前衛、接近!」


 魔法を防いだ直後も魔王軍本隊は止まっていなかった。むしろ、こちらが防御に集中した瞬間を狙い、前衛部隊を城壁へ迫らせていた。


「第一防衛線、交戦開始!」


     ◇


 兵士達が動き、魔物を迎え撃つ。魔族兵と刃を交える。


 アベルも立ち上がったが、


「まだ休んでいろ。」


ガルドが言う。だが、アベルは首を振って答えた。


「まだ戦えます。」

「お前は本当に……。」


 ガイルは呆れたように笑う。しかし、その目には心配が浮かんでいた。


     ◇


 戦場の中心。


 魔王軍指揮官は静かに砦を見る。


「勇者、か……。遂に俺にもチャンスが回ってきたようだ。」


 魔族の視線が再びアベルへ向けられる。

 本当の防衛戦はまだ始まったばかりだった。

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