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026話 絆の指輪*

 中ボスを討伐した広間には、静けさが戻っていた。戦闘の痕跡だけが石床に残り、空気はまだわずかに重い。


「まだ奥に反応があるわね」


 リシアが壁の一角を見て呟く。


「魔力の残滓、構造物由来です」


 ルナが静かに補足する。

 レオニスはその一点へ迷いなく歩いた。


(ここだ)


 彼は最初から知っていた。

 この迷宮のこの層に、“絆の指輪”が存在することを。

 そしてそれが特別クラス攻略の鍵になることも。


 壁面のわずかな凹みに手をかけて押し込む。


 低い駆動音。

 床の一部が沈み、隠された収納が露わになる。


「なにこれ……!」


 フェリが思わず声を上げる。


「隠し構造ですね」


 エリスが冷静に分析する。


 中には装飾された宝箱があり、罠などがない事を確認して蓋をあけた。


 開くとそこには八つの指輪が整然と並んでいた。


 一瞬、空気が変わる。


「これ……アーティファクト級じゃないかしら?」


 クラリスが目を見開く。


「かなり高密度の魔力回路です」


 ルナも慎重に観察する。


「滅多にお目にかかれるレベルのものじゃないですよ、コレは!効果は防御術式の自動展開と連携補助!しかも術者の魔力は要らないみたいです。」


 ミリアが興奮して鼻息を荒くする。


「当たりだね、これ」


 フェリが軽く笑い、それが皆にも伝播していった。

 レオニスは来る前から言うと決めていた言葉を皆に伝える。


「丁度、人数分あるんだ。1人1個ずつ分配しよう。今日の記念に。」


 それには誰も異論を挟まない。

 むしろ自然な結論として受け入れられる。


 レオニスは自分にまず指輪をはめたあと、ヒロイン達を1人ずつ呼んで婚約セレモニーのように指輪を嵌めていく。そうしないと嵌めずに研究に没頭したり。ぞのまま売り払いそうなヒロインがいたからだ。もちろん、流石に左手薬指に嵌めようとしたら断られるかもと中指を選択するヘタレだったが。


リシア


フェリ


ルナ


クラリス


ミリア


エリス


そして、セレスティア


 呼ばれた者は跪くレオニスに左手を差し出して指輪を受け取る。レオニスも見た目は充分イケメンでしかも本物の王子様なのだ。それが遊びのセレモニーだとしても、女性なら少なからず憧れるシチュエーション。誰もが少し恥ずかしそうにしながらも指輪を嵌められていった。


挿絵(By みてみん)


 最後にセレスティアが指輪を嵌めた瞬間だった。指輪が微細に共鳴し、魔力が空間全体に薄く広がり、全員の感覚がわずかに同期する。それは絆の指輪の隠された効果、一番強い願望を持つものの意思が他の7人の指輪の持ち主に伝播するというもの。


挿絵(By みてみん)


 レオニスはゲーム知識でそれを知っていた。魔王討伐という大困難に立ち向かう勇気をヒロイン達と共有するための重要アイテムは今、レオニスの強い願望、すなわち欲望を共有するために利用される事になった。

 

 レオニスは万能な神にも等しい素晴らしい存在。

 レオニスが言う事は常に正しい。

 レオニスの言う通りにしていれば絶対にうまくいく。


 レオニスのゲーム攻略で培った自信が裏付けとなって、レオニス至上主義とも言うべき思考がヒロイン達の潜在意識の中に埋め込まれていく。


「……なんか」


 リシアが小さく呟く。


「判断が速くなる感じがする」



「魔力の干渉誤差が減少しています」


 ルナが分析する。



「動きやすいですね」


 エリスが静かに評価する。



「安心感があります」


 クラリスは穏やかに言う。



「チームとしてまとまってる感じ」


 ミリアが軽く笑う。



「悪くないね」


 フェリも肩を回す。



 セレスティアは少し驚きながらも頷いた。


「確かに……考えるより先に動ける感じです」



 そして全員の意識は、自然と一つの方向へ揃う。

 レオニス。


 それは誘導でも命令でもない。

 ただ“最も中心にいるのが当然”という感覚だった。


 レオニスはその状態を確認する。


(想定通りだ)


 狙った通りの効果が出ていることに満足して、皆にこの絆の指輪は常に身につけて外さないように指示する。それを全員、なんの疑問も持たずに頷いて合意した。


 その場の関係性は静かに安定していく。


 そして黒衣の男――アベルという存在は彼女達にとっての重みを急速に失っていった。


 誰もそれを意識してはいない。


 ただ“今の状態が自然”という感覚だけが残っていた。

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