025話 統率された突破
第二層の最奥に近い広間。
そこに今回の迷宮の中ボスにあたる魔物が待ち構えていた。
岩の装甲を持つ大型魔獣。
通常なら複数パーティでの討伐対象だが、今回の難度設定では“十分対処可能”とされている個体だった。
「予定通りだ」
レオニスは短く告げる。
迷いはない。
その姿には確信があった。
(この敵は、攻略手順が分かっている)
「前衛、展開」
指示と同時に、全員が動く。
魔獣が吠え、地面が揺れる。
「来る!」
リシアが即座に前へ出る。
真正面からの突進を受け止めるのではなく、軌道をずらす動き。
「領域展開」
フェリが瞬時に防御陣を張る。魔獣の一撃がその防御陣にぶつかる。だが完全には止められない。いや、止めるのが目的ではなかった。あえて“流す”形で威力を減衰させる。
「そこ、誘導するわ」
セレスティアが魔力干渉で地面の反応を変える。
魔獣の重心がわずかに崩れる。
「今!」
フェリがその隙に横へ回り込み、脚部へ斬撃を入れる。硬質な装甲に刃が走る。完全な破壊には至らないが、確実に動きを削る。
「支援続行」
ミリアとクラリスの連携がフェリとリシアのバフをそれぞれ上書きする。スピード重視からパワー重視の構成に。
「行きます。衝撃に備えて下さい。」
詠唱を終えたルナが大規模な範囲攻撃魔法を展開する。それは直接的な攻撃ではなく目隠しを意図したものだった。魔獣の視界が立ち上った炎に埋め尽くされた。
その隙にエリスの回復魔法が全体に広がる。リシアとフェリ、2人の前衛陣の消耗はそれで完全に回復し、さらに攻撃を続ける。
戦場は一時的に安定していた。
「パターン通りだ」
レオニスが呟く。
「次で決める」
魔獣が再び暴れ始める。
だが、その動きはすでに読まれている。
「セレスティア、対象を拘束。」
「はい。」
セレスティアの魔法による結界が展開され、魔獣の動きが一瞬止まる。
「ミリア、溶解液を」
「了解!」
クラリスが伝手で入手した素材でミリアが作成しておいた、このボス専用の溶解液。表面を柔らかくし刀などの攻撃を通し易くする効果がある。
ミリアが投擲した溶解液の瓶が魔獣の頭にあたり中の液体が広がっていく。
「リシア、フェリ」
レオニスの短い指示。
「承知!」「わかってる!」
リシアとフェリが交差して一気に踏み込む。
魔獣は結界で動きを制限されたままだ。
2人の斬撃が魔獣の頭部に入る。溶解液で柔らかくなった皮膚に2人の刃が深く沈み込んでいく。そしてトドメとばかりにレオニスの剣が頭部に突き刺さる。
「ライトニング」
レオニスが剣を媒介として電撃魔法を魔獣の頭に直接打ち込んだ。僅かな痙攣、そして硬直のあと鈍い音とともに魔獣の動きが止まった。
数秒の沈黙。
そして崩壊。
巨体が崩れ落ちた。
「……討伐完了」
レオニスが息を吐く。
その場の全員の緊張が一気に解ける。
「問題ないな」
レオニスは短く言う。
(予定通り)
誰も大きな負傷はない。連携も充分だ。
攻略としては理想的な結果だった。
だが戦闘の“完璧さ”とは裏腹に、誰の中にもわずかな違和感だけが残っていた。
フェリは双剣を納めながら、わずかに視線を落とす。
(前より少しだけ“噛み合いが軽い”気がする)
リシアも同じように小さく息を吐く。
(悪くはないけど……なんか、余裕ありすぎるというか)
黒衣の男の影は、まだ表には出ていない。
それでも確実に、彼らの判断基準の中に入り込み始めている。




