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俺が主人公のはずなんだけど、王子様に全部持っていかれたんですが。  作者: 踊りすがりのおっさん
第1章 運命から外れた男

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024話 休憩中の会話

 迷宮探索は小休止に入っていた。


 セレスティアの構築した結界で区切られた休憩区画に、エリスの回復魔法が静かに広がる。


「みなさん、こちらへ」


 柔らかな光が全員の身体を包み、疲労をほどいていく。


「助かるわ」


 リシアが肩を軽く回す。


「安定してる回復ね」


 ルナも魔力の流れを確認しながら頷いた。


 セレスティアは結界を維持しながらも、エリスの魔法をさりげなくサポートしていた。そこに派手さはないが、全体の状態を確実に整えていた。


 やがてレオニスが口を開く。


「少し離れる。すぐ戻る」


 そう言ってお花摘みのために護衛騎士の1人を連れて休憩区画を離れる。



 その背中が見えなくなると、場の空気がわずかに緩む。


「……やっぱり、あの人は変だったよなぁ。」


 フェリがぽつりと呟いた。


「誰のこと?」


 リシアがすぐに反応する。


「この前、迷宮で助けてくれた人でアベルっていう一般クラスの生徒。」


 その名前に、エリスとリシアの視線が動いた。

 フェリはことのあらましを皆に簡単に説明する。黒い外套を着ていて異常なほどに強く、そんな彼に迷宮で救助されたこと。


「学院で噂の"黒衣の男"って、それ?」


 リシアが確認する。


「うん。間違いない。あの日も1人で高難度迷宮に潜ってたみたいだし。」


 その時、セレスティアが小さく声を漏らした。


「黒衣の……君……」


 フェリが気づく。


「セレスティア?」


 セレスティアは一度視線を落とし、静かに言う。


「以前……野盗に襲われた際のことです。護衛が倒れ、私自身も身動きが取れない状況でした。」


 空気がわずかに引き締まる。


「その時、黒衣の方が現れて……戦況を一瞬で覆し、私の侍女の命を救っていただきました。


 セレスティアはそこで一度言葉を切る。


「その後すぐ居なくなってしまわれて、私たちはその方にろくに御礼も出来ずに…。」


 リシアが眉を上げる。


「名乗りもしなかったのね。」


 セレスティアは小さく頷く。


「はい。特徴といえるかどうか分かりませんが、そのとき腕をさすっていたような…。そして、あっという間に去っていってしまいました。」


 フェリは少し考える。


「つまり、助けたあともすぐどこか行ったってこと?」

「はい。そうです」


 その時、ミリアが思い出したように口を開く。


「そういえば……」


 全員が視線を向ける。


「前に錬金室に来た人がいたの。その人もアベルっていう一般クラスの生徒だった。でも、その時は彼はすごく急いでいて“私が作った解毒薬の試作品をすぐに欲しい”ってお願いされて…。」


 エリスが静かに反応する。


「解毒薬?」

「うん」


 ミリアは記憶を辿る。


「腕に毒矢の傷があって必要だったみたい。その時は黒髪の一般クラスの生徒ってしかわからなかったけど、後でアベルって名前を聞いて…ね。」


 フェリが小さく頷く。


「それが理由かも。」


 リシアが続ける。


「セレスティア達を助けた黒衣の男と同じ人物なら辻褄は合うわね」


 エリスも分析するように言う。


「セレスティア様を助けた時に毒を受けた可能性はないでしょうか?その対処として解毒薬が必要だった、というのなら辻褄は合いそうです。でも、私の知るアベルさんなら毒ぐらい自分自信で治療出来たと思うんですが…。」

「どういうこと?」

「ここ最近、頻繁に薬草を治療院に寄付してくださっている方がいるんです。」

「それがアベル?」

「はい。それだけじゃなく…重症な患者の治療にも…(ゴニョゴニョ)。」


 あの時の魔力共有を思い出して思わず頬を染めるエリス。


「だから、回復薬の市場が安定してきたのね。」


 クラリスが自分も一時期アベルから薬草を買い付けていたことを共有する。エリスは気を取り直して言葉を紡ぐ。


「アベルさんが寄付してくれている薬草には命の雫草も含まれていました。あれは万能薬の材料で、そのまま煎じて呑んでも大抵の毒は解毒できた筈です。」


 それをミリアが否定する。


「実はアベルが受けていたのは"黒蛇の毒"で、既存の解毒薬では効果がないの。」


 ルナがさらに考察を加える。


「だから、ミリアのところに行ったのね……でも、どうしてミリアの所に?他にも解毒薬のアテならありそうだけど…」

 「何故かはわからない。でも、余裕がなかったのは間違いないと思う。」


 最後にフェリが重要な事に気がついた。


「そう考えると、あの人ずっと危ない場所にいるってことになるね」


 皆が頷いているところへ、セレスティアは静かに言葉を落とす。


「でも、もしアベルさんが黒衣の君であれば、帰ったら直ぐにお礼を伝えたいと思います!」



 離れた木陰。

 レオニスはその会話を静かに聞いていた。


(アベル)


 点だった情報が、明確な線になっている。


(しかも、無関係ではない)


 その存在はすでに、単なる“噂の生徒”ではなくなっていた。


(厄介だな)


 レオニスは静かに目を細める。

 その中には、初めて明確な警戒が宿っていた。

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