228話 勇者を休ませる者たち
偵察に出て帰投したリックによると、火薬で自爆魔法を偽造した大規模な爆発により魔王軍の戦力は大きく減り、撤退を選択したようで残っていた魔族や魔物が一斉に戦場から居なくなったそうだ。
そのことを確認した時、アベルを含む宵闇の月の5人は、やり過ごせた事に安堵していた。
◇
「……なんとかやり過ごせたが、どうするか?」
ガルドが周囲を見渡す。魔王軍の気配は遠ざかっていた。追撃する必要もない。少なくとも、アベルを護り切ったことで、彼らの勝利は確定した。
「それにしても、どこからお前1人で戦ってたんだ?逃すというからには、最初は皆で戦っていたんだろ?」
「最初は前にあった谷間で迎え撃ってたんですけど、段々と押し込まれて、開けたころに押し戻される前に他の皆は撤退しました。」
「……お前。」
ガルドは額を押さえる。
「まさか、それからずっと一人であの数を相手にしていたのか?」
アベルは答えなかった。その沈黙が答えだった。
「無茶苦茶だな。」
「本当に。」
リックが呆れたように呟く。
「勇者だからって、何でもできるわけじゃないだろうに。」
アベルは少し困ったように笑う。
「でも、他に方法がありませんでした。」
◇
その言葉に、宵闇の月の他のメンバーは何も言えなくなる。
理解したからだ。この少年は勝つために残ったのではない。皆を逃がすために残ったのだと。
「……本当に。」
ガルドは小さく息を吐く。
「損な性格してるな。」
◇
少し休んだ後、アベルは立ち上がる。
「追います。皆を。」
その言葉にガルドが目を見張る。
「その身体でか?」
「大丈夫です。」
即答だった。
だが、一歩踏み出した瞬間……
身体が揺れた。
「……。」
膝が崩れた。アベルは咄嗟に剣を支えにしようとするが、力が入らない。
「アベル!」
ガルドが慌てて支える。
「……大丈夫です。」
いつもの言葉。しかし、今回は説得力がなかった。
顔色は悪い。
呼吸も浅い。
生命力と魔力を削り続けた身体は、限界を軽く超えていた。
「大丈夫な奴は倒れない。」
ガルドが即座に返す。
「休め。」
「でも……。」
「追うんだろ?」
ガルドは続ける。
「なら、なおさらだ。今倒れたら、本当に何もできなくなる。」
アベルは黙る。
反論できなかった。
自分でも分かっていた。
今の状態では戦うどころか、移動すら危うい。
◇
「近くに街がある。そこで休め。」
ガルドが決める。
「これは命令だ。」
アベルは少し驚く。
「冒険者って、そんなに強制するものなんですか。」
「する時もある。」
ガルドは笑った。
「特に、無茶する勇者相手にはな。」
◇
その後、宵闇の月はアベルを連れて近くの街へ向かった。本音を言えば、アベルはすぐにでも仲間を追いたかった。マユミとメアが、どのような扱いを受けているか心配だったからだ。
街へ向かう道中、アベルは何度も振り返る。討伐隊は魔王城に向かったのだろうか?それとも撤退して王都に戻ったのだろうか?どうにかして、マユミとメアを助けなければ…。そんな心配ばかりが脳裏をよぎる。
だが、今はガルド達の優しさに甘える以外に、彼女達を確実に救うためのビジョンが思い描けなかった。
勇者アベルの長い戦いはまだ終わっていない。




