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227話 孤独な背中を見た者たち

時系列的には174話の続きになります。

 しばし時を遡る。


 宵闇の月は森の中を進んでいた。


「最近、アベルの姿を見ないな。」


 ガルドが呟く。


「魔王討伐隊に参加したとは聞いたが……。」

「まあ、あいつのことだ。」

「また無茶してる可能性はあるな。」


 だから、少し様子を見る。それだけのつもりだった。



 森を抜けた先で彼らは異様な光景を目にする。


「……なんだ、あれ。」


 魔王軍、その数え切れないほどの魔族兵。

 その中心に一人の少年が立っていた。


「アベル……?」


 ガルドの表情が変わる。


 周囲を確認する。他のヒト族の姿はない。

 援護する兵士も、魔法使いも、誰もいない。


「おかしい。何で、あいつ一人なんだ。」


 アベルは傷だらけだった。

 それでも、魔王軍を前に剣を構えている。


「……考えるのは後だ。」


 ガルドが武器を抜く。


「助けるぞ。」


--------


「アベルーーーー!」

「無事かーーーー!」

「そこをどけー、おりゃーー!」

「待ってろ!今、助ける!!」


 宵闇の月が戦場へ突入する。猛烈な竜巻のように、周囲の魔族兵を薙ぎ倒して、アベルのもとに辿り着くガルド達。


「……皆さん……どうして……ここに?」


 息も絶え絶えにアベルが尋ねる。


「そんなの決まってるだろ!」

「仲間がピンチだったら助けに行くもんだ。」

「お前も宵闇の月のメンバーなんだよ。もっと自覚をもて」

「ここは一旦俺らに任せて、お前はちょっと休んでろ。」


そこから戦況は変わった。宵闇の月の高い戦闘能力。的確な支援、孤独だった戦場の風が変わった。


少し落ち着いたところでガルドが尋ねる。


「どうして一人だった?」


 アベルは短く答える。


「……皆を逃がす必要がありました。」

「殿って、奴か……。じゃあ、その役割は十分に果たしたな。少なくとも魔力感知できる範囲には俺ら以外誰もいないし。そろそろトンズラするぞ。」


「そ、それはいいですけど……どうやって?」


「ふふん。俺らぐらいのベテランになると、この手のピンチから逃げる手段ぐらいは用意してあるんだよ。」


 そう言って、ガルドが懐から覗かせたのはスクロール。


(転移のスクロールか!?)


「おっ、その顔は知ってるようだな。迷宮では地上に運んでくれるが、こう言った場所の場合、最寄りの安全地帯に運んでくれる代物だ。だが、逃げたのを隠蔽しないと意味がねえ。そこでだ。」


 ガルドがトーヴとリックに目配せする。それだけで彼らは何をすべきかわかったようだ。


「バルド、ちょっと時間を稼いでくれ!準備する。」

「任せときな、あらよっと!」


 トーヴが魔法の詠唱に入った。知らない魔法だ。そしてリックは赤い風船のようなものをいくつも用意している。また、火薬袋らしきものも地面に並べていた。そこへ魔王軍の魔法使いから攻撃魔法が飛んでくるのが見えた。


「あれでいくぞ。皆近くに集まれ!」


 ガルドの掛け声で他の3人がガルドとアベルのいる地点へ集まってくる。


「よし、転移だ!」


 その瞬間、トーヴは強烈な光を放つ魔法を放ち、リックは近くの岩や地面に5つの赤い袋を投げつけた。そして、直ぐに転移が始まる。魔族の魔法が着弾する直前、その場は強い光に包まれ、その後大きな爆発が起きた。



 アベル達は先の戦場から、かなり離れた小さな無人の砦に飛ばされていた。


「本当に……。」


 ガルドは呆れたように笑う。


「無茶苦茶な勇者だな。お前は!」


 しかし、その声には確かな敬意が混じっていた。

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