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225話 妹の願い*


 アルセリア王城


 王の居室へ続く回廊。そこを魔王軍は、ゆっくりと進軍していた。もはや王城の防衛線は崩壊している。残された兵士たちは必死に抵抗しているが。それに対する少女たちの力は、あまりにも大きかった。特に、アルセリア王家の第一王女セレスティア。その知識と戦闘力、指揮力はずば抜けていて、魔王軍の軍事力が組み合わさった結果、王都と王城は速やかに制圧されていった。


     ◇


 王城内部。


 避難していた王族たちの中に、一人の少女がいた。

 その少女は第二王女リリア。セレスティアの別腹の妹だった。


「まさか……お姉さまが。」


 今まで姉セレスティアの凶行は秘匿されていたが、遂に隠しきれなくなりリリアの耳にも届くことになった。そのことに動揺し驚きを隠せないが、窓の外を見ると、そこに黒い軍勢の先頭に立つ姉の姿がみえた。


 幼い頃から憧れていた姉。

 優しく、強く、誰よりも民のことを考えていた人。

 その姉が今、自分たちの国を壊そうとしている。


「そんなはず……ありません。」


 リリアは首を振る。


「お姉さまが、こんなことを望むはずがない。」


     ◇


「サーシャ、悪いんだけど水を貰ってきて貰えるかしら?」


 リリアは彼女の護衛の女騎士であるサーシャに上目遣いでお願いする。サーシャは、このお願いの仕方に弱いのだ。


「お水ですか?では、絶対にここから離れずに、お待ちください。今、貰ってまいります。」


 サーシャが見えなくなって、リリアは行動を開始した。


(お姉さまを止めないと!)


 その目には決意があった。


     ◇


 王の居室に続く長廊下。


 魔王軍が歩みを進めるその道に、一人の少女が歩み出る。


挿絵(By みてみん)


「止まってください。」


 その声に、セレスティアの足が止まった。


「……リリア。」


 名前が自然に出た。その瞬間、周囲の空気が僅かに揺れる。


 リリアは姉を見る。

 昔と変わらない顔。しかし、纏っているものは違った。


「お姉さま、どうしてですか?」


 声が震える。


「どうして……こんなことをしているのですか。」


 セレスティアは静かに答える。


「分かりませんか。この国は変わらなければならないのです。魔王陛下のもとで、陛下に尽くし、ヒト族の殲滅に貢献することこそが、この国のあるべき未来です。」


 リリアは悲しそうに首を振る。


「違います。お姉さまは、そんなことを言う人ではありません。」


 セレスティアの表情が僅かに揺れる。

 リリアは続ける。


「覚えていますか?昔、お姉さまが言っていたこと。王族は民のためにあるものだって。力を持つ者ほど、弱い人を守らなければいけないって。」


 その言葉。

 どこか遠い記憶。

 セレスティアの中に残っているもの。


 指輪が淡く光る。


(違う。ヒト族は奪った。裏切った。)


 デュラハンの怨念が流れ込み、セレスティアの胸に浮かんだ揺らぎが押し戻される。


「リリア。」


 セレスティアは静かに言う。


「あなたは優しいですね。ですが、その優しさが、ヒト族を甘やかした結果が今なのです。」


 リリアの瞳が揺れる。


「違います……お姉さま。民は……。」


 言葉を探す。


「民は、お姉さまを愛していました。皆、お姉さまがどれだけ頑張っていたかを知っています。お姉さまが誰よりも国のために努力していたことを知っているんです。」


     ◇


 一瞬、セレスティアの胸に痛みが走る。


 民。

 国。

 守りたかったもの。

 かつての自分。


 しかし、そこへ別の記憶が重なる。


 裏切り。

 絶望。

 失ったもの。

 デュラハンの感情。


     ◇


「……違います。」


 セレスティアは小さく呟く。


「私は、もう知っています。ヒト族が何をする存在なのか。」


 リリアは涙を浮かべる。


「私たちだってヒト族です!お姉さまは……誰かにそう思わされているだけです。」


 その言葉にセレスティアの手が僅かに止まる。

 リリアは一歩近づく。


「戻ってきてください。お願いです。昔のお姉さまに戻ってください。」


     ◇


 周囲のヒロインと魔族兵が動こうとする。しかし、セレスティアは手で制した。


     ◇


 リリアはその小さな変化を見逃さなかった。

 まだ、きっとまだ姉は完全には消えていない。


「お姉さま。あなたは、本当は誰よりも優しい人です。」


 セレスティアは妹を見る。そして、ゆっくり目を閉じた。


「……リリア。あなたは。」


 一瞬、優しい姉の声に戻る。


「変わりませんね。」


 リリアの表情が明るくなる。


「お姉さま!思い出せたのですね!」


 しかし、次の瞬間、指輪が強く光った。


     ◇


(ヒト族を許すな。奪われたものを思い出せ。)


 400年分の怨念が再び流れ込み、セレスティアの瞳から、迷いが消えていく。


「……退いてください。」


 静かな声。


「これ以上、あなたを傷つけたくありません。」


 リリアは涙を流す。


「お姉さま……。」


 セレスティアはリリアを押しのけて前に進む。妹の自分を呼ぶ声を聞きながら。それでも、歩みを止めることはできなかった。


 視線の先には目指すべき王の居室が見えていた。

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