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224話 崩れゆく王都

 アルセリア王都。


 王城の一部が崩壊したことで、戦場の空気は一変していた。王国側の兵士たちは動揺している。


 自分たちの守るべき場所であり国の象徴。それが、敵側の手によって傷つけられた。その事実が、兵士たちの心を折り始めていた。


     ◇


 アルセリア王城地下。


 魔導兵器は全ての魔力回路を物理的にオフラインにした。その場の兵士達が慌てて目の前にあった重要な動力ケーブルを切断したのだ。これで2発目を撃ち込まれる心配はなくなったが、アルセリア王国は魔導兵器という最終手段を失った。


     ◇


 城門前。


 アルセリア軍は最後の防衛線を構築していた。


「まだだ!王城を守れ!」


 騎士たちは必死に声を上げる。王城には避難した多くの市民がおり、その中には兵士達の家族もいた。


 しかし、その前に立つのはセレスティア。魔導兵器の利用は早々に諦めて、その足で魔王軍を先導してきたのだ。


 セレスティアの姿を見た兵士たちは、どうしても動きを止めてしまう。あれほどまでに優しく誰からも愛された自国の姫に、直ぐに剣を向けられる兵士はいない。


「……セレスティア殿下。」

「なぜ……。」


 その戸惑い。以前なら、セレスティアの心を揺らしていた。しかし、今は違う。


 指輪が淡く光り、胸の奥へ流れ込む感情。


 怒り。

 憎悪。

 絶望。

 そして怨念。


(ヒト族は裏切る。信じる価値などない。)


 セレスティアは静かにレイピアを構える。そして、タクトの様に振るった。


「一斉射。」


 その声に迷いはなかった。魔族兵からの砲撃と魔法が前線に着弾し、バリケードや大砲などの防衛機構、そしてそこにいる兵士の全てを焼き尽くしていく。


     ◇


 生き残った兵士がようやく覚悟を決めて、攻撃に移ろうとしたところで、最初に動いたのはリシアだった。


「道を開けなさい。」


 かつてなら、彼女はヒト族の兵士であれば敵であっても相手を傷つけない方法を探しただろう。しかし今、目の前のアルセリアの兵士たちをかつての敵、魔族兵のように認識していた。


 そしてリシアの刀が振るわれる。それだけで、兵士たちが弾き飛ばされ防具が裂けるほどの重傷を追わされる。それにより多くの兵士が倒れていった。


 フェリの弓とクラリスの魔導銃が、兵士達の後ろにいた魔導師たち、魔法による防衛陣を形成していた彼らを撃ち抜いていく。魔導師達は倒れ、目の前の結界魔法は消滅した。


「……なぜ。」


 倒れた兵士が呟く。


「なぜ、あなたがこんなことを…。」


 セレスティアは何も答えなかった。


     ◇


 さらにフェリが魔法矢を放ち、風の刃が城壁を削る。それにより最後に残っていた防衛設備が破壊された。そして、ついに魔王軍は王城の中への侵入を果たす。


     ◇


 セレスティアは前へ進む。

 目の前にはアルセリア騎士団。


 かつて、父を守り、自分を守ってくれた者たち。

 その姿を見ても、もう足は止まらない。


「最後の警告です。降伏しなさい。」


 騎士団長が剣を構える。


「殿下。それ以上、進ませるわけにはいきません。」


 セレスティアは静かに目を閉じる。


「……そうですか。お父様は死を選んだのですね。であれば、もう必要なのは三種の神器のみ……。」


 セレスティアは通信用魔道具を持つ魔族兵を呼び寄せた。


「全軍に通達。製錬施設に保管されたミスリルゴーレムの素体と王が持つと思われる宝珠・ミスリルゴーレムのコアの確保を最優先目標に設定。抵抗するヒト族は全て実力で排除。」


 次の瞬間、魔法が展開される。騎士団の防御陣形が崩れる。仲間たちも一斉に動く。


 リシアが前衛を突破する。

 それをフェリとクラリスが援護する。

 ルナが防衛魔法を無効化する。

 どんなに傷ついても瞬時にエリスとミリアが魔法とアイテムで回復する。

 それを指揮し、支援魔法や攻撃魔法をも駆使するセレスティア。


 そんな中、セレスティアは改めて決意した。この国の正統後継者であることを示すだけでなく、国民全ての生殺与奪権を持つものに与えると言っても過言ではない王冠と王笏。それから宝玉たるミスリルゴーレムのコア。これらを手に入れて自らが女王となり、この国そのものを魔王様に捧げることを。そのために父を、そして家族を殺すのを厭わないことを。それが自分の望みであり使命であると考えて。


     ◇


 魔王城・玉座の間


 魔王は遠隔魔法で戦況を見ていた。


「順調だな。」


 側近が頷く。


「はい。予定通り王女自らが防衛を順調に突破しております。」


 魔王は満足そうに笑う。


「やはり。私の狙いに狂いはなかったな。」


 過去に何度か行った遠征で、その硬い魔法の守りとミスリル武具で固められた兵士を突破して、王都まで侵攻することは一度も出来ていなかった。それほど強固な護りを誇った王国は、今や風前の灯火だ。


 ゼイが果たせなかったアルセリア王国の完全支配は、他ならぬアルセリア王国の第一王女セレスティアの手によって、まもなく達成されようとしていた。


     ◇


 アルセリア王城内。


 最後の防衛線が崩れ魔王軍はさらに奥へ進む。

 その先にあるのは国王の居室。そこには王位継承者の証である王冠と王笏が厳重に保管されている。この2つの秘宝を王族が使えば、国内にいる全ての国民の魔導力を制限できる。王国内のあらゆる魔法や魔力を使った仕組みを機能停止すれば普通の生活すらままならなくなるため、これらを手にした者には、全ての国民は必然的に従わざるを得なくなるのだ。しかし、その機能は、建国以来ただの一度も使用された事は無かった。

 そして宝玉、すなわちアベルから新たに提供されたミスリルゴーレムのコア。ミスリル製錬の要。この3つをセレスティアが入手したとき、アルセリアの王位は正式にセレスティアに継承されたことになり、それは同時に魔王の奴隷国家としての始まりを意味する。


 セレスティアは止まらない。向かうは王の居室。かつて、最も大切にしていた父と亡き母との思い出の場所へ……

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