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223話 王女の決断

 アルセリア王城地下。


 巨大な魔導兵器の制御室では、警告音が鳴り響いていた。


「制御系統に異常!」

「外部干渉が継続しています!」

「なんとか持ち堪えています!」


 技術兵たちが慌ただしく操作する。王族だけが持つ最高権限であっても、本来ならば外部からはコントロールできない仕組みになっている筈だった。もちろん、セレスティアのもつ権限は王が既に停止している。にも関わらず、どこかに仕掛けられたバックドアにより王族権限で侵入されていた。その権限とは亡き王妃、セレスティアの母のものだ。


「あり得ない……王族用の制御権限が、外部から使われようとしている…。」


 誰も理解できない。本来ならば、これは王家の者が国を守るために使うもの。それが今、敵側から利用されている。


     ◇


 王城前。


 セレスティアは静かに目を閉じていた。

 魔導兵器との接続、王都防衛術式、魔力供給網。

 全てが彼女の中へ流れ込んでくる。


 かつて、父から教えられた知識と王族として学んだ技術、それらを今、国と国民を傷つけるために使おうとしていた。復活させた亡き母の権限まで利用して。


「……。」


 一瞬、胸の奥が痛む。非道な目的のために亡き母まで利用してしまったのだ。しかし、その痛みを押し潰すように、指輪が熱を持つ。


(ヒト族は奪った。躊躇う必要はない。何も信じるな。全てを終わらせろ。)


 デュラハンの怨念が流れ込みと、セレスティアの表情から迷いが消える。


「お父様。貴方はもっと聡明な王だと思っていましたが……残念です。」


 ヒト族を根絶やしするためになら、己を捨て、国民すら捨ててでも貢献すべき、という魔王様の崇高な理念すら理解できないというなら、自分が王位を継ぐしかない。あるいは、今すぐ国を滅ぼすのでもよい。どのみち結果は同じなのだから。いずれにせよ……。


「終わりにしましょう。」


 小さく呟く。


「……殲滅戦へ、移行します。」


     ◇


 魔王軍側。


 リシアがセレスティアを見る。


「どうするの?」


 セレスティアは王城を見る。


「王城の王の部屋。そこに保管されている王冠と王笏を奪取します。この2つのアーティファクト使えば国内のヒト族の魔力、魔法、魔導具を制御下に置くことができます。」

「それは、つまり国民は誰も魔法も魔導具も使えなくなると?」

「ええ。それだけでなく体内の魔力を暴走させて死に至らしめることすら可能です。ただ、個人を対象にできるような代物ではないので、もしも暴走させるなら王国民全員が対象になりますね。それはそれで魔王様にお喜びいただけそうです。」


 ルナは僅かに目を細める。


「じゃあ、この魔導兵器はどうする?使わないのか?」

「いいえ。折角だから使いましょう。王の部屋の神器さえ残っていれば構いませんから。思い切って破壊した方が、ヒト族の士気も下げられるでしょうし。」

「承知した。」


 本来なら、魔導兵器の利用、それも自分にとって未知のものの使用にあたってはルナはもっと慎重だった。だが今、その言葉に疑問を持つ思考すら、歪められていた。


     ◇


 王城地下。


「目標設定を確認、照準を――」


 技術兵が声を上げる。


「違う!勝手に目標が変更されている!」


 画面に表示される標的。そこは、魔王軍ではなかった。


「王城……。」


 一人の兵士が呟く。


「王城だ。」


     ◇


 王城内部。


 国王は異変を感じ取っていた。


「……まさか。」


 魔力の流れ。それは外へ向かっておらず、こちらへ向いている。


「セレスティア……。」


 王妃の顔が青ざめる。


「止めて……。」


 母親としての願い。しかし、それは届かなかった。


     ◇


 魔導兵器が起動し巨大な魔力が収束していく。

 空間が震え、王都全体が、その力を感じ取った。


「発射。」


 セレスティアが命じる。

 次の瞬間、光が走った。


     ◇


 轟音。


 王城を包む衝撃のあと、巨大な爆発が発生する。石壁が崩れ塔の一部が吹き飛んだ。王城内へ瓦礫が降り注ぐ。兵士たちが叫ぶ。


「陛下!」

「王妃殿下!」


     ◇


 しかし、完全な破壊には至らなかった。魔導兵器の制御が不完全だったためだ。


 王族認証による接続。しかし、本来の使用者ではない者による操作、さらに魔王軍側から流れ込む魔力干渉により術式には大きな乱れが生じていた。その結果、王城全体を消し去るはずだった一撃は一部損壊に留まった。


     ◇


 瓦礫の中で国王は何とか身を起こす。


「……生きているのか。」


 周囲を確認し、幸運だったことを理解する。直撃ではなかったが、王城は大きく傷ついていた。


     ◇


 城外。


 セレスティアは静かに結果を確認する。


「……すこし外しましたか。」


 小さく呟く。本来なら、この一撃で王城そのものを、ほぼ完全に破壊できるはずだった。


 だが、吹き飛ばせたのは上の方のごく一部だけ。しかし、2発目は外さない自信があった。


 制御権限

 魔力供給

 術式理解

 まだ全てを完全には掌握できていない。


「次こそ、終わらせます。」


 セレスティアは再び魔導兵器へ意識を向ける。その制御を完全なものにするために。その瞳に、かつての王女の面影は残っていなかった。


 王都の運命は、さらに危険な段階へ進もうとしていた。

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