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220話 狂気の進軍*

 魔王城。


 巨大な門が開かれる。その先に広がる大地には、無数の魔族軍が整列していた。


 魔獣

 魔族兵

 魔族騎士

 そして、その先頭に立つ者たちは、


 この軍の将であるデュラハン、親衛隊であるマユミとメア。そして、勇者と共にあったはずの七人の少女たち。その姿を見た魔族兵たちは歓声を上げる。


「勇者の仲間が我らの側にいる!」

「もはやヒト族など我らの敵ではない!」


 しかし、少女たち自身は、その歓声に何も感じていなかった。ただ、胸の奥にある感情だけが膨らんでいた。


 憎悪。

 怒り。

 悲しみ。

 それらは、もはや自分だけのものではなかった。


     ◇


 先頭のデュラハンが剣を掲げる。

 黒い鎧から漏れ出す魔力。それは400年前から積み重なった怨念そのものだ。


挿絵(By みてみん)


 目の前の美女から発したとは思えないほどの低い声で告げる。


「第一目標、アルセリア王国およびその全ミスリル関連施設の制圧。それが困難だと判断した場合には第二目標として、保管されているミスリルおよびミスリル製品の奪取、及び全ミスリル関連施設の破壊を行う。」


 最後に剣を掲げた。


「進軍する。」


 そして魔王軍が動き出す。

 その数は一万。世界最大級の軍勢が、ヒト族の国へ向かって進み始めた。


     ◇


 アルセリア王国王都近郊。


 国境を守る砦へ、緊急報告が届いた。


「魔王軍です!数は……恐ろしい数です!その数、1万以上!」


 兵士たちの顔が青ざめる。魔王復活の知らせは既に世界中へ伝わっていた。しかし、実際に軍勢が迫ってくる恐怖は、想像のそれを遥かに超えていた。


「王都への緊急通信回線を開け!急げ!!」


 砦の兵士たちが慌ただしく動く。


 だが、その直後に空気が変わった。


     ◇


 魔王軍の先頭。


 セレスティアが前へ出た。その姿を見たアルセリア兵の動きが止まる。


「……え?」

「まさか……。」

「セレスティア姫様……?」


 誰も理解できなかった。

 自分たちが守るべき王女。

 国民が敬愛する存在。

 その人物が、魔王軍の先頭に立っていた。


「そんな……。」

「王女殿下が……魔王軍に!?」


 兵士たちの間に動揺が広がる。


挿絵(By みてみん)


     ◇


 セレスティアは兵士たちを見る。

 胸の奥に僅かな痛みが走る。

 知っている顔もいた。

 幼い頃から王城に仕えていた騎士。

 訓練場で何度も見かけた兵士。

 本来ならば守るべき国民。


 しかし、指輪を通じて流れ込む感情が、その痛みを押し潰していく。


(ヒト族は奪った。全てを。)


 デュラハンの怨念が囁く。セレスティアの中にある悲しみを、別の形へ変えていく。


「アルセリアの兵達よ。抵抗を止めなさい。」


 静かな声。


「そして、その身と魂を魔王陛下に捧げるのです。」


 その言葉に兵士たちはさらに混乱する。


 敵なのか。

 味方なのか。


 誰も判断できなかった。


     ◇


 最初に動いたのはリシアだった。


「邪魔をするなら……切る。」


 兵士たちは構えた。しかし、次の瞬間、リシアの一撃で全員が地に臥せていた。


(カチン)


 リシアは刀を鞘に収める。彼女の抜刀術は全員を一瞬で戦闘不能にする。それほど圧倒的な差だった。


挿絵(By みてみん)


     ◇


 フェリが魔法を放ち、風の刃が飛んでいく。監視用の物見台が崩れ、上にいた見張りの兵士は慌てて飛び降りて逃げようとするが、フェリは続けて地面を削り、進路を奪う。


挿絵(By みてみん)


「動かないで。」


 そう言ってクラリスは逃げようとした兵士に魔道銃を向ける。その声には苦しさが混じっていた。自分でも分かっている。これは戦いではなく侵略だ。それでも止められない。発砲。そして兵士は動かなくなった。


挿絵(By みてみん)


     ◇


 ルナは防衛魔法陣を解析する。


「……古い術式。でも、ここの魔力供給を切れば機能停止する。」


 淡々と告げる。少し前までなら興味深い研究対象だっただろうが、今は何の興味も湧いてこない。ただ邪魔だから取り除く。それまでに得た貴重な古代術式の知識を惜しみなく使って、敵の防御を破壊するための手段にしていた。


挿絵(By みてみん)


     ◇


 エリスとミリアは後方で支援を行っていた。


 負傷した魔族兵を治療する。死にかけた魔獣すら回復させる。その力は圧倒的で、アルセリア兵を震撼させるほどだった。魔王軍の兵士や魔獣は完全に殺さない限り、何度傷ついても、たとえ死にかけても立ち上がり、再び襲いかかってくる。対して、アルセリア兵は一度崩れれば戻れない。そのため戦況は最初から一方的だった。


挿絵(By みてみん)

     ◇


 王都への道。


 その途中、セレスティアは一度だけ振り返る。


 燃える村。

 崩れる防壁。

 逃げ惑う人々。


 胸の奥が痛む。


(違う。一体、私は何を……。)


 しかし、指輪が淡く光り、その疑問はすぐに消される。


(ヒト族が悪い。全ての原因はヒト族だ。)


 デュラハンの怨念が流れ込んで、今すべきことが明確になっていく。


「リザードマン隊は西へ回り込んで。トロール隊は東に。残りは、それらを陽動として中央から進行します。」


 セレスティアの指示が飛ぶ。その内容に一切の容赦も躊躇いもない。


 そして、少女たちは再び歩き出した。魔王軍の軍勢を引き連れて。


     ◇


 アルセリア王都。


 城壁の上で国王は報告を受け、絶句していた。


「セレスティアが魔王軍の先頭にいるだと?

……まさか、人質に取られたのか!?」


 王がまず考えたのはセレスティアが肉壁として魔王軍に利用されているケースだった。だが……


「いいえ違います。陛下!セレスティア殿下が……殿下が魔王軍を先導しています。」

「何だと!?一体どういうことだ?」


 誰もその問いに答えられない。

 王は信じられなかった。愛する娘が自分たちの国へ刃を向けている。そして、その背後には世界を滅ぼそうとする魔王軍が迫っていた。


 アルセリア王国で、かつてない熾烈な戦いが始まろうとしている。

近接戦闘での強さの目安

一般兵士<<フェリ<リシア<<マユミ<l超えられない壁|<デュラハン

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