219話 魔王軍決起集会*
魔王城、大広間。
巨大な扉が開かれると、その先には、魔王軍の主力戦力が集結していた。
各軍団長とそれを統括する司令官たる将軍。
歴戦の魔族将校。
そして、数万にも及ぶ兵士たち。
これから始まる戦争のための決起集会。
その中心へ、七人の少女たちが連れてこられた。
リシア
フェリ
ルナ
エリス
クラリス
ミリア
セレスティア
彼女たちは周囲を見渡す。これは、ただの集会の場ではない。戦争の始まりを告げる場所だと察していた。
◇
魔王が玉座から立ち上がる。
「魔王軍の精鋭よ。よく集まった。」
低い声が広間へ響く。
「今日、この場で我ら魔族の新たな時代の始まりを宣言する。」
高らかな魔王の宣言に魔族たちが一斉に頭を下げる。
「長きに渡り、我々は人族と争い続けてきた。奴らは我らを恐れ、排除してきた。」
魔王の視線が広間を巡る。
「だが、それも今日で終わりだ。」
一拍、そして…
「これより、ヒト族の世界を終わらせる。」
空気が震えた。
「我々は人族を滅ぼす。今日より魔族は、この世界からヒト族を永遠に駆逐するための闘争に突入する。」
魔族に大歓声が巻き起こり狂気の熱気に包まれる。
だが、その言葉に、七人の少女たちの表情が変わる。
「そんな事はさせません!」
セレスティアの静かな、だが確かな激情を含む声が響いた。
リシアも前へ出る。
「魔族の好きにはさせない。」
フェリも睨みつける。
「絶対に止めてやる。」
ルナも魔力を高める。
「少しでも抵抗してみせる。」
一方、エリスは首を横に振った。
「やめてください……共存の道もあるはずです。」
ミリアも声を震わせる。
「戦争なんて……誰も幸せになりません。」
クラリスは魔王を見る。
「それで本当に未来があると思っているのですか。」
◇
魔王は静かに笑った。
(いかにもヒト族らしい発言だな。)
だが、そんな彼女達の発言を無視して魔王は立ち上がった。
「そして、その手始めとして……。」
魔族の幹部達も息をのむ……
「ヒト族の国、アルセリア王国へ侵攻する。かつて勇者に協力し大量のミスリル装備をヒト族にもたらして、我らを苦しめた仇敵を今こそ蹂躙するのだ。」
その瞬間、その言葉を聞いた魔族の兵士達から一際大きな歓声が上がる。一方で、セレスティアの顔からは血の気が引いた。
「アルセリアを……私の祖国を……。」
自分の故郷、守るべき民がいる国。
「そんなことは絶対にさせません!」
静かだが、しっかりと通る声。そこには王女としての怒りがあった。
「では、どうするというのだ?ヒト族の小娘ごときが。ああ、余に国ごと差し出すか?ミスリルの供給を無償で行う奴隷国家となるならば、暫くは存続することを考えてやってもよいぞ。もともとは、その予定だったしな。ふはははははっ。」
「ふざけないで下さい!」
さらに怒りを抑えきれないセレスティア。だが、魔王は笑いを堪えながら言った。
「ふざけてなどおらん。それに、そんな事を言ってられるのも今のうちだけだ。」
「それはどういう意味ですか?」
怒りを抑えることもできず喰ってかかったセレスティア。だが、魔王は七人を見下ろす。
「まだ理解していないようだな。アルセリアを……ヒト族を滅ぼすのは我ら魔族だけではない。」
魔王が手を上げる。
「アレを持ってこい。」
魔族兵が前へ出る。その兵が持つトレーに並べられてあったものを見た瞬間、七人の表情が凍った。
「まさか、"絆の指輪"…。」
かつて、レオニスによって利用されたもの。自分たちの認識や感情を歪められた忌まわしいもの。それは彼女たちにとって。自由を奪われた記憶そのものだった。
「……嫌です。」
セレスティアが小さく呟く。
「それだけは……。」
指先が震える。
「もう二度と、誰かに私の心を奪わせません。」
リシアも歯を食いしばる。
「それで何をするつもりだ。」
魔王は淡々と告げる。
「拒否するなら、あのヒト族の男と同じように改造するだけだ。」
その一言で全員が理解した。選択肢などないという事を。死ぬ事すら許されない、という絶望が全員を襲っていた。
◇
一人。
また一人。
魔族によって指輪を嵌められていく。
「やめて……。」
エリスが抵抗する。
「これは…私たちの意思を奪うものです。」
しかし、魔族の力には抗えない。
指輪が光る。だが、すぐには何も起こらなかった。
◇
最後に、一人の存在が前へ出る。
デュラハン魔王軍将軍。黒い甲冑に身を包んだ美女。その手には最後の指輪があった。デュラハンがそれを自ら装着する。
瞬間、全ての指輪が共鳴した。
◇
レオニスに渡されたときよりも、それはもっと深い場所へ入り込んでくる。
彼女の持つヒト族への憎悪と絶望。
400年もの間、積み重なった怨念。
魔王への絶対的な服従。
かつて国を守ろうとした女王が愛した民に裏切られたと思い込まされた末に抱いた感情と、アンデッド化の時に術式により魂に刻み込まれた偽りの忠誠心。それが絆の指輪を通じて全員に流れ込んで共有される。
◇
「……あ。」
セレスティアが胸を押さえる。
苦しい。
悲しい。
憎い。
自分の感情なのか、
誰かの感情なのか、
分からなくなる。
「ヒト族……。」
リシアが呟く。
「愛する者を奪った存在。」
フェリの瞳から涙が落ちる。
「許さない……。」
ルナは静かに目を開く。
「排除すべき対象。」
ミリアは続ける。
「それは全てのヒト族。」
クラリスは誰に忠誠を捧げるべきか理解する。
「魔王様のために……。」
エリスは祈りを込めた。
「神に救われるべきは魔族。魔王様が救世主様。」
セレスティアは決意する。
「ヒト族は滅ぶべきです。そのためになら私は国を、国民を、そして不肖の身なれど…私自身をも、全てを魔王様に捧げます。」
それは彼女たち自身の考えではない。しかし、彼女たち自身の中にあった別の感情と結びつき、歪んでいく。
アベルを失った悲しみ、罪悪感といくつもの後悔。それらが、デュラハンの怨念によって、ヒト族への憎悪へと変換、増幅されていく。
◇
七人の少女たちはゆっくりと魔王へ向き直る。
そして跪いた。
「我らは魔王様に従います。」
「ヒト族を滅ぼすために。」
「全ての魔族のために。」
「この世界を変えるために。」
「命を捨ててでもアルセリアを落とします。」
「そして全てを魔王様に捧げます。」
「魔王様に栄光あれ!」
魔王は満足そうに笑う。
その傍らには黒い首輪を嵌められた二人の少女。
マユミ
そしてメア
二人は静かに立っていた。
◇
翌朝。
魔王城前。
巨大な軍勢が並ぶ。先頭に立つのは将軍デュラハン。その傍らにはマユミとメア。そして、絆の指輪によって歪められた七人の少女たち。
魔王が命じる。
「進軍を開始せよ。目標、アルセリア王国。」
こうして魔王軍は動き出した。
魔族の魔の手から勇者が守った国に、新たな絶望が迫っていた。
真の絶望が始まります。




