218話 戦いの後で*
魔王城闘技場。
戦いが終わった後も、重い空気は消えなかった。
七人の少女たちは床に這いつくばり、荒い呼吸を繰り返している。傷も多い。だが、それ以上に、心へ残った衝撃が大きかった。
目の前にいた少女は、自分たちが知らなかった場所でアベルのことを想っていた。その事実が、胸に重く残っていた。地に伏せた状態でセレスティアは呟く。
「……あなたは本当に、アベル様を大切に思っていたのですね。」
セレスティアのその言葉は彼女にとって羨望であり、ある意味では嫉妬でもあった。自身にはもう持つ事が許されない感情だとわかっていたから。
マユミの表情が僅かに揺れる。
「当然です。」
迷いのない返答だった。
「アベル様は半魔である私に生きる意味をくださいました。」
その言葉にヒロイン達は息を呑む。
「半魔は、魔族からもヒト族からも忌諱される存在。それでも、アベル様は私を見下したり、見捨てたりしませんでした。」
マユミは自分の手を見る。そこには、アベルとの契約の証が残っている。
「自分が傷つくことなど気にもせず。私を助けてくれました。私が何者なのか知っても……それでも、手を差し伸べてくれました。私個人を尊重して、共に生きようと約束してくださいました!」
静かな声。だが、そこには強い想いが込められていた。
「だから私は、アベル様を害して一緒になる未来を潰した者を許せない。」
その言葉にヒロイン達の表情が苦しくなる。
彼女たちも同じだった。アベルを失ったと思った瞬間。胸の奥に空いた穴は埋まらない。だからこそ、マユミの痛みが分かってしまった。
―
その夜の魔王城の一室。
マユミは一人で座っていた。
闘技場での戦い。そこで感じた違和感が消えない。彼女達は完全な敵ではなかった。彼女たちもまたアベルを失ったことを苦しんでいた。
「……でも。」
マユミは目を閉じる。
「それでも、アベル様は苦しんだ。」
それも事実だった。
だから、どうすればいいのか分からない。
怒りたい。
憎みたい。
でも、アベルなら、きっと違う答えを選ぶ。
その考えが、消えてくれない。
◇
扉が開く。入ってきたのはデュラハンだった。
無言で立つ姿。生前は母であったことをマユミは知らない。ただ、なぜかその姿を見ると、不思議な感覚があった。
「……師匠。」
デュラハンは答えない。ただ、マユミを見つめる。その視線には、本人ですら気付かない僅かな揺らぎがあった。
「お前は、まだ迷っている。」
低い声。マユミは顔を上げる。
「……迷ってなど……。」
「いるよ。」
デュラハンの言葉は短かった。
「憎しみ。悲しみ。そして、失いたくないという感情。」
マユミの胸が痛む。
「……師匠は全てお見通しなのですね。」
デュラハンは何も答えなかった。
ただ、一瞬だけその手が僅かに動く。触れようとして止まる。今の自分には、そんな資格すらないと言うように。
◇
その頃。
魔王は執政官と話していた。
「マユミの仕上げはどうするか?」
「力は確実に増していますが…。」
「そうだな。」
魔王は満足そうに頷く。
「怒り、悲しみ、全て力へ変わっている。」
執政官は尋ねる。
「最後の一押しとは。」
魔王は静かに答えた。
「簡単なことだ。希望を完全に否定させる。アベルがヒト族の策謀により殺されたという現実を心の底から受け入れさせる。」
それからもまたマユミは、またメアによりアベルとの死別についての悪夢を見させられた。
アベルを失ったあの日を。
何度でも
何度でも
繰り返して、その死を潜在意識に刻み込むために。
メアからレオニスへ、マユミからヒロイン達への「1発殴らせろ」編でした。これで手打ちとは限らないですが。
次回から次章で、物語が大きく動きます!




